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適切なDMを作り出す仕掛け

掲載日: 2010年01月15日

従来のバリアブルプリントやOneToOneの既成概念がくつがえされようとしている。

今日多くなっているマスメディア広告が無効になったという論調は極端であるが、かつてと異なってマスメディア広告を絶対しなければならない要素は減っている。ビジネスが大きくなると当然ながら顧客はマスになるので、マスコミュニケーションを使う機会は多くなりマスメディアに露出する意味はある。しかしそこに至るまではアーリーアダプター的な顧客を掘り起こさなければならない。そのためにはターゲットを絞って密度の濃いコミュニケーションをすることが必要だ。

より顧客層にフィットするコミュニケーションをしようとしても、人の嗜好の違いを追いかけてビジネスをし始めるととめどがない。そこでデータマイニングとかCRMとかOneToOneとかいろいろな手法が考えられた。しかし顧客分析と実際のコミュニケーション手法を結びつけるのは難しいので、手法だけが一人歩きしがちである。コミュニケーション手法から人間的触れ合いの要素を抜き去ると、違和感を産むようなこともままある。DMの手紙の文面に自分の名前が連呼されるように埋め込まれた差込印刷的なOneToOneもあまりフィット感はない。

画像の中に人の名を埋め込むようなOneToOneは、もらった人をハッとさせるのでプレゼンをするにはよく使われるが、実際にはノベルティくらいで、数の多いDMには処理が重過ぎるものもある。こういった表現の技法を活かすには、受け手にそれなりの納得性のあるOneToOneの仕掛けが必要である。今までの紙の大量DMはデザインをひとつに絞り込んで印刷製版をしなければならなかったので、デザインの過程であれやこれや考えて複数のカンプを作ったとしても、デザインとターゲットのマッチングの考察は一旦捨てて、最終的には万人ウケしそうなものにせざるを得なかった。

そこに突然OneToOneの手法が降って湧いても、DM設計やデザイン側の対応ができていなかったので、手紙もグラフィックも名前の差込印刷程度になってしまったのかもしれない。しかしOneToOneとはそのようなものだと結論付けるわけにはいかない。受け取った人の納得性という点では過去からいろいろな嗜好や消費行動の研究やデータがあるので、それらを踏まえることがこれからの課題である。

データマイニングやCRMからは訴求内容や文面をセレクトし、いくつかのバージョニングとかセレクティブのDM設計をする。それを表現に結びつけるところはまだこれから試行錯誤を積み重ねていかなければならないので、例えば日本カラーデザイン研究所のイメージスケールのような嗜好のデータと、嗜好と顧客のグループを合わせるロジックと、デザインテンプレートのような表現をマッチングさせるエンジンは、切り分けられている必要があるだろう。

こういう顧客マッチングの環境ができると、デザイナは曖昧な状況認識のもとにあれやこれや複数のカンプを考えるのではなく、複数のコミュニケーションのシナリオを元にデザインを考えるようになるだろう。こうなるとオンデマンド印刷やバリアブル印刷によってマス印刷よりもフィット感のある訴求力の強い媒体になるはずだ。しかしオンデマンドという点ではこういった環境があるともっと別の効果も期待できる。

つまり上記のようなバリアブル印刷の仕組みが先に設定されていれば、顧客データが得られた時点でDMなどの自動生成が可能になるからだ。これはWebやケータイを通じて要求された資料請求に自動応答するものを思い描くが、今の段階で早急に自動処理をしても違和感を生まないものになるという確証はないだろう。ミスマッチが少なく結果がある程度見込めるようにするために、どこかで人の判断をはさんでおけるとよい。今そのような機能を何処が果たせるかと考えると、コールセンターがヒューマンなHUBになっていることがわかる。こういった全プロセスを踏まえたOneToOneno見直しが必要になっている。

PAGE2010のF5セッション「バリアブルプリント」(2月5日13:00-)では、上記のようなこれからのOneToOneの発展の方向について試行をしている方々が、今ここまでできているというプレゼンテーションと、今後の展開の可能性についてディスカッションを行う。従来のバリアブルプリントやOneToOneの既成概念がくつがえされようとしている。

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