ブランド力を高め、共感・感動を生むサービスを目指そう
掲載日: 2010年01月23日
市場が縮小する中で、中小企業の生き残りを懸けた差別化とは何か。試行錯誤の末にたどり着いた結論はブランド戦略であった。「世の中に必要とされる商品」を目指したブランディングの軌跡をたどる。
2009年11月「量から質の時代へ」をテーマに、JAGAT会員の集い「JUNP近畿2009」を開催した。1918年創業の老舗 ハグルマ封筒のコンシューマー市場開拓によるブランド戦略を代表取締役 杉浦正樹氏が講演した。
差別化のために何をするか
ハグルマ封筒は創業が1918年で、もう一歩で老舗企業と思って、100年目指してがんばっている。売上高は25億円だが、封筒以外もあるので、1000億円に対して20億円、2%を切るシェアになる。
大阪、東京、札幌に営業所があって、本社と工場は大阪である。90%が法人向けで、10%が個人ユースの封筒である。2000種類の商品を持っており、それは封筒メーカーでは一番多い、紙の素材をたくさん持っている。
既製品、いわゆる在庫品に、プロセス4色の印刷をするほか、封筒の蓋(ふた)部分のベタも、製品の状態からくわえなしに印刷するとか、そういった機械で対応している。濃い封筒にはエンボスや箔押しなどの加工をしている。封筒専門の印刷機が20台あって、在庫があれば翌日出荷できる対応を取っている。
市場が縮小する中で差別化が必要だが、当社が10色増やすと他社も10色増やす。大手が再生紙をやり出すと、他社も再生紙をやる。ある会社がミシン付きをやると、他社もミシン付きをやる。ハーフ99という、中が透けない封筒を作ると他社も作る。結局どこも同じことをする業界なので、どうしたら差別化できるかと考えていたのが15、16年前になる。
差別化とは何かと考えた時に、特許やどこにもまねできない技術、ビジネスモデルやコネクションなどが挙げられる。しかし、私が追求しようと思ったのは、ひと言で言うとブランドである。
圧倒的な良さで本当に良い物を作る。封筒の本質的な価値はこういうものだというものを作ってみたい。それが
当社の生きる道ではないかという結論に達して、その道を15年ほど前からスタートさせることになった。新市場への取り組みである。
ブランディングへのチャレンジ
最新鋭のブランドではなく、クラシックなもの、昔からあるブランドを学べないかと考えて、3回に分けて、トータル1カ月間アメリカとヨーロッパのペーパーショップやプリントショップを回った。
結局、目指したのはステーショナリー(文房具という意味ではなく、書くものと書かれるものという意味)である。レターヘッドと言うとわかりやすいかもしれない。請求書の頭には自社の宣伝などが書かれているビルヘッドがある。古くから企業の顔として、きちんとした請求書を相手に送るという行為が大切にされていた。また、名刺などもまとめてステーショナリーという言い方を欧米ではしている。ステーショナリーは日本になかった概念だが、いろいろ調べて紙素材と加工技術が大切だという結論に達した。
そこで、製紙メーカーと3年掛けてオリジナルの紙を作った。普通のパルプではなくコットンという素材は、何ということもない紙だが微妙に持った感触が良い。加工技術では海外にはエングレービングという印刷機がある。普通のオフセット印刷とは違って、彫刻版で印刷するもので、印刷加工に対しても深く考えるようになった。
個人市場へあえて踏み込む
経費ではなく、個人が自腹で本当に良いものにお金を払ってくれれば、ブランドが見えてくるのではないかと、まずは個人市場に取り組んだ。東急ハンズや伊東屋など、以前大型の文具店に封筒を1枚ずつ選んで買えるコーナーがあったが、あれはハグルマ封筒が提供していた。1枚売りにチャレンジしている。
1999年には個人向けの手紙用品ブランド「ウイングド・ウィール」を設立した。もともと「羽車封筒」には、手紙を飛行機や電車を使って大切に届けようという意味がある。そこで、ウイングド・ウィール、羽の付いた車輪という意味の会社を設立した。レターヘッド、招待状、封筒、便せん、名刺、カード、グリーティングカード類などのネット販売からスタートして、2001年に直営店をオープンした。今は海外販売にも挑戦している。
欧米には特徴的なステーショナリーのブランドがあるが、日本のブランドとして「
ウイングド・ウィール 」の本社を東京に置いて、表参道に出店した。表参道はファッショナブルな地域で、一番感度の高い人たちが集まるので、まずここから成功させたいと決めていた。それも住宅地の中に置いて、通りがかりの人ではなく、わざわざ来てもらう人で商売を成功させたいという気持ちで出店した。
個人ブランドを法人ブランドへ展開
2001年から法人向けにも少し付加価値の高いものを提案し始めた。ウイングド・ウィールの商品と相乗効果があるように、またウイングド・ウィールの法人客からヒントを得たものを中心にやってきた。例えば、蝋(ろう)引きされた封筒も在庫品として扱っている。コットンペーパーも法人向けに作って販売している。
付加価値の高い封筒は日本ではニーズがあまりなかった。ただ単に作っただけでは動かないので、まずウイングド・ウィールを突破口として、法人向けにも提案するというところで、SOHOや企業向けの少し変わった封筒のラインナップを2001年から始めている。そこでわかったことは、自社のブランドやイメージを大切にしている企業や小売店は非常に多いということである。
2001年にハグルマ封筒オンラインストアをオープンして、最初はあまり反応がなかったが、今ではかなりの動きがある。安い封筒を買う人はゼロで、他店にはない封筒だけを買い求めに来る客が非常に多い。
ウイングド・ウィールは意識改革のシンボル
このようにオンリーワン差別化戦略を確立してきたが、実は社員の意識改革が一番難しかった。15年前から差別化を模索して、勉強会を月に1回、今でも開催しており、100回以上は行っている。
付加価値の高いものがどうして必要かを話し合って、「マーケットは小さくなるし、人口は減っていくし、このままでは必ず大手に飲み込まれてしまう。何とか新しいものを提案して、紙製品業界を引っ張っていかなければ」という話を、いろいろ形を変えて今でもやっている。そういう意味でも、ウイングド・ウィールを作ったことは意識改革になったのではないかと思う。
これからの方向性としては、ブランド、市場、商品の3点に絞り、自社の目指す頂点に向かってしっかり歩み続けることが重要であると考える。
(「JAGAT info」2010年1月号特集より一部抜粋)
★杉浦正樹氏 がPAGE2010で講演します
2010年2月3日(水) 16:00 ~ 18:00
G3 「量的ビジネスからの脱却」
ブランド力を高め、共感・感動を生むサービスを目指そう
http://www.jagat.jp/content/view/1632/375
人口減少が加速する中、量を追求するビジネスから脱却しないとならない。時代を見据え、新しいビジネスに取り組む2社が「学校マーケットの変化がメディアに与える影響」と「ブランド戦略による印刷物の高付加価値化へのチャレンジ」を紹介する。