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立場が変わって学べたこと

掲載日: 2010年01月27日

[若手印刷人リレーエッセイ] 

創業者2代目として

1996年、創業者の2代目として私は小鹿印刷に入社しました。物心ついたころには工場で手伝いをしていましたので、改めて社会人になったという実感はありませんでした。ただちょうど私の入社したころ、当社もDTPに取り組み始めたころで、Power MacにQuarkXPressで組版をしていたことはとても新鮮に感じました。今となっては考えられないような能力ですが、当時の写植機からすれば目覚ましい変わりようだったと思います。

入社して3年後の1999年に、年商と同じくらいの借金をして新社屋を建て、新しい輪転機を導入しました。今から思えば先行きの見えない状況で、自社の能力と会社の方針を見誤ったのかもしれません。そこからが厳しい経営の始まりでした。翌年には当時のメイン顧客が民事再生法を申請し、またそのほかでも立て続けに不良債権を負いました。

会社としてはとにかく売り上げを作ることを目的に、積極的な受注活動を行いました。その結果、売り上げは上がりましたがそれに伴う利益の確保はできませんでした。現場では業務が忙しくなったにもかかわらず、それに伴う報酬アップができなかったことにより若い社員が辞め、またいろいろな風評から仕入先も離れ、最終的には仕入も困難な状況になりました。

当時は社員にも会社の状況を理解してもらうために経営に関わるいろいろな話をし、また仕入先にも何とか信用していただき取引の継続ができるようお願いしました。しかし2004~2005年当時、印刷業界もさらなる淘汰が進行しており、このまま小鹿印刷単独で経営することはいずれ社員や仕入先、またお客様にも迷惑が掛かると判断し、サクラグループの一員となることを決断しました。

新しい立場で

サクラ印刷のグループ会社になることについては、直接交渉を行っていたのではなく、いろいろなご縁を頂き成立したので、グループの一員となってから両社の実務内容を確認することになりました。

お互いの会社は偶然ではありますが車で5分圏内という距離で、また業務内容もほぼ同じでした。大きく違ったのは、小鹿印刷は輪転機を中心としたハードの会社、サクラ印刷はデザインを中心としたソフトの会社ということでした。約1年を掛けてお互いの会社の強み弱みや課題を出し、そこをどのように補いどのように効率化するかを検討しました。その結果、両社で共通するそれぞれの営業、デザイン、製造、管理部門を統合し、小鹿印刷の社名も製造、管理部門を統括するサクラホールディングスと変更することになりました。

同じような業務内容とはいえ、2社の社員を振り分けることにはお互いの会社の文化や価値観、待遇面を共有化することにやはり抵抗もあり時間も掛かりました。統合するに当たり、サクラ印刷の経営陣には小鹿印刷の社員に対して非常に気を配っていただき、お互いの会社の社員が安心して働いていける環境を作ることができました。また私自身も引き続き専務取締役として経営陣の中に加えていただき今日に至っています。

その2年後にはさらなる効率化を目的に、今までは営業・前工程部門のサクラ印刷と製造・管理部門のサクラホールディングスの2カ所で営業しておりましたが、1カ所に集約しました。売り上げが思うように上がらない状況で会社として何ができるかを考えた結果、集約することによりサクラグループ全体のバランスを整え、無理無駄を排除し原価の低減を図ることが必要という結論になったからです。

これから大切にすること

厳しい経営状況からサクラグループの一員となり今日に至るまでの5年間は、重要な判断を求められることが何度もありました。厳しい経営状況にあった時は、個人的な損得よりも社員や取引先にとって何が一番良い方法かを考えて行動しました。

またサクラグループの一員となり、経営者とは違う立場で2つの会社を一緒にする時は、そこで働く社員の気持ちを考え人員削減や配置転換などをすることなく統合することができました。

この2つの場面を経験することで学んだことは、いろいろな状況で物事を判断する場合、明確な基準を持つことが大切だということです。基準を持つことにより本来の目的から外れることなく行動することができたと感じています。

もちろん判断をする場合、会社オーナーとしての責任とサラリーマンとしての責任は比べることはできませんが、立場が変わっても会社として判断する上では明確な基準、方向性は必要だと思います。

私の場合その基準となったのは「損得よりも善悪が上」という言葉でした。企業として利益を出すことは大切ですが、判断に迷った時の優先順位はまず善悪で考え次に損得で考えました。損得だけにとらわれてしまうと周りが見えなくなり、迷えば迷うほど大きな間違いが起きてしまうと感じました。これからも景気の動向や印刷業界の変化、また自社を取り巻く環境においても先の読めないことが続くと思います。

そのような厳しい状況で会社を運営するに当たり、まずは会社にとって社員にとって何が善か、次にどうすれば利益が得られるかを考えていきたいです。一つ一つの決断は小さなものですがその積み上げが良い会社を作り、またその積み上げが業界全体の向上に役立てばと思います。

[著者紹介] 小鹿氏写真

小鹿 晃義(おじか てるよし)。1972年5月31日生まれ。愛知県名古屋市出身。東海大学卒。1996年小鹿印刷株式会社入社。2005年専務取締役に就任。同年、小鹿印刷がサクラ印刷のグループ企業となり現在に至る。趣味はゴルフ、読書。

株式会社サクラ印刷
株式会社サクラ印刷、株式会社サクラホールディングス、株式会社ジャパンプランニングセンターの3社でサクラグループとしている。業務内容はチラシ、カタログなどを中心とした企画デザインから印刷加工全般、Web制作など広告宣伝に関するものをグループ内で行っている。
本社:〒457-0071 名古屋市南区千竃通6-35
TEL 052-822-4488 / FAX 052-822-5592

『JAGAT info』2009年9月号
若手印刷人リレーエッセイ

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