電子Book?電子書籍?eBook?eReader? 垂直から水平へ
掲載日: 2010年02月05日
元年は脱したが、まだ見通せないところは多くある。PAGE2010報告(2)
PAGE2010コンファレンス2日目のC1セッション「
新たなビジネスチャンスを生み出す電子書籍市場」では、毎年のように「電子書籍元年」と関係者は言っていたのが、今になって本当にそう感じられるようになったという話から始まった。最初に情報通信総合研究所の水野秀幸氏がアメリカの様子を報告し、1月のCESで成長が期待される分野の4番目にeReaderが上がっていることを挙げた。AmazonのKindleがブームなわけだが、これらの類似デバイスは非常に増え、本のための「iPod」というような理解で総称としてeReaderと呼ばれているという。後に日本でこれをどう呼ぶかについてイーストの藤原隆弘氏が電子コンテンツリーダーがいいのではないかといっていた。
AmazonのKindleを追うように、Sonyや本屋のBarnes&NobleもeReaderビジネスを始めているが、日本との違いはAmazonが3G携帯電話の登録をして始めたように、みな通信料金込みでコンテンツに課金をしていることである。だから買うと即座に何十万タイトルのコンテンツにアクセスできる。Amazonでは通常30-40ドルの書籍を電子版なら一律10ドルで買えるが、日本では12ドルとなるのは国際電話料金がかかるからだという。要するに携帯電話の簡便さが電子書籍の普及には欠かせないというコンセプトは共通のようだ。また課金・決済面でもスッキリしたものになることは明らかだ。なるほどビジネスモデルはそのように作るものかと、日本の電子書籍と比べても勉強になるのではないか。
藤原氏は小規模やニッチの電子書籍端末は自分で書籍サイトを作っていてフォーマットがバラバラであるといったが、SonyやBarnes&NobleはePubという標準フォーマットを目指している。これはデバイスとコンテンツを分離する考えで、将来にわたってデバイスが多様化してもビジネスが継続できるための条件でもある。水野氏はデバイスがiPodのように寡占化するのか、携帯電話のように多様化するのか、まだ分からないとしながらもセッションの最後には垂直統合に収まるものではなく、水平分業の動きも強いので、暗にコンテンツがデバイスと心中するようなリスクは避けるべきという見解かなと感じた。
方正の河田京三氏は、同社のApabi形式が中国での電子書籍の圧倒的なシェアをもっていて、中国の500の出版社、600の新聞社に採用され、すでに50万タイトルの電子書籍があり、年間発行される書籍の56%がこの方式で電子化されていると言った。AmazonのKindleと似た同等の電子ペーパーを使った端末も製造していて、チャイナテレコムの3G端末として利用できるアメリカ型のモデルである。中国の図書館業界でも主流であり、オンラインで本を借りることができる。これだけ普及したのは出版社・新聞社はPDFとテキストファイルを方正に渡せば無料で電子書籍に加工して、出版社の決めた価格からお互いが収入を得るというノーリスクの提案をしたからだという。
単に敷居の低い簡便なビジネスモデルというだけではなく、簡体字と繁体字の切替ができるとか、方正のフォーマットはデバイスの大小によって適した表示状態にできるとか、他にはない特徴をもっているのが、いかにも開発側の発想に思える。2010年2月より日本向けの活動も始まり、デイリースポーツを海外でiPhoneを使う人のために配信するとか、国内市場では日本食糧新聞を始め専門紙10紙の配信も始まっている。デイリースポーツを海外に出す時には広告を差し替えるとか削除するなどの加工も行っている。しかし日本のコンテンツホルダー側の内部事情の複雑さというか、今までも電子化の足かせになっていた部分がやはり重たいことも伺わせている。
方正は中国国内でもDRMを強化した運営をしており、中身のコピーや不正使用を防ぐことでこのビジネスを伸ばす考えで、これは日本のコンテンツホルダーの信用を得ることにつながるだろう。水野氏はAmazonが作家を重視して売り上げの70%を払うという方針で、これから作家を志す人の方を向いていることを指摘した。日本の出版界はそもそも本を10ドル均一で売ることに消極的な態度であるようなことを藤原氏は指摘していた。当面は本のメタファそのもので始まったeReaderであるが、ハード、フォーマット、ユーザインタフェース、既存メディアとの関連、誰がコンテンツホルダになるのか、など見通せないところは多くあるようだ。