本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
執筆者:JAGAT客員研究員 岸 和孝氏
コンピュータメーカーでOS開発に従事した後独立。SGML/XMLフリーツールの開発や移植を専門とし、現在はコンピュータ関連の調査・執筆活動に従事するほか、JAGATのXML関連各種セミナーの講師も務める。
★The SGML/XML Page
現在、EPUBについては、ビジネス中心の話題が多く、技術的な話題が乏しいようです。
確かに、EPUBの登場によって出版・印刷業界が活性化してきた雰囲気がありますが、実際は、著作権や課金などの問題を乗り越えなければ、わが国では海外のように活況を呈すところまではいきません。
一方、技術面では、わが国独自の縦書きが焦点になっています。現在提案されている縦書きCSSが勧告となって、電子書籍デバイスのビューアーに採用される確かな見通しが立っているわけではありませんので、EPUBの将来について軽々しい予断はできません。
EPUBの技術についてはプリンターズ・サークル(2009年2月号)の連載記事「探検 XMLボキャブラリの世界」で「電子書籍のボキャブラリ」として取り上げましたので、ご参照ください。
手短にEPUBを定義すれば、「EPUBとは、今までPDFで実現していた電子書籍を、XHTMLとSVGという従来技術で実現するもの」です。言いかえれば、ウェブの延長線上においてそのサブセットのEPUBで電子書籍を実現することを狙っています。
ここでは、EPUBの技術に焦点を絞っています。一つは、縦書きをSVGで実現する際の問題を探ること、もう一つはEPUBにおける編集の問題を探ることです。
縦書きCSSの実現まで縦書き書籍を市場に提供できないということは、折角の盛り上がりに水を差すことになりかねません。現在の欧米のEPUBビューアーでも縦書きSVGは働きますので、縦書きCSSまでの「つなぎの技術」として考えられないか、という問題提起です。
さらに、EPUB技術をOpenOffice技術と合わせて考えています。それは原稿の執筆から出版までを一貫した流れの中にとらえるためです。すなわち、OpenOfficeのWriter(MS OfficeのWordに相当)で原稿を執筆し、それをEPUBへ変換します。次に、複数の原稿から一つのEPUBへ合本(集版)します。この処理を行うツールをOpenOfficeの拡張機能として開発しました。
こうした研究のために、サンプルとして「青空文庫」のテキストを拝借しています。それらを容易に取り込めるツールも合わせて開発しました。
これらのEPUBツールの概要については「EPUB解体新書」をご覧ください。
現在、頒布しているツールは、次の三つであり、これらはLGPLの下で自由に利用できます。
●青空文庫のXHTML文書をWriter文書へ変換する拡張機能「aozorabunko2writer」
●OpenOfficeのWriter文書を縦書きのEPUB文書へ変換する拡張機能「writer2epub」
●複数のEPUB文書を合本して出力する拡張機能「EpubBinder」
現在、頒布しているEPUBサンプルは、次の通りです。
■「探検 XMLボキャブラリの世界」
■テストスイート
■芥川龍之介「羅生門」
■芥川龍之介「鼻」
■芥川龍之介「芥川龍之介短編集」
■唐望「士農工商」
上記のEPUBサンプルをパソコンのウェブブラウザで閲覧する場合は、EPUBReaderをアドオンしたFirefoxをご利用ください。なお、Internet ExplorerやSafariでは、まだ閲覧できません。