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本格化してきたXMLコンテンツ制作と出版・印刷

掲載日: 2010年02月11日

※PAGE2010グラフィックストラックでは、「XMLコンテンツ制作と出版・印刷」をテーマに取り上げた。PAGE2010報告(4)

このセッションでは、出版社・印刷会社の立場から、教育や法令・用語集などの分野におけるXMLコンテンツや印刷物・デジタルメディア制作とその課題などを議論した。

■教育出版におけるXMLコンテンツ

ベネッセコーポレーションの桑野和行氏は、「ベネッセにおける教育コンテンツのXML化」「XMLユーザーグループによるフリーツールの開発」「コンテンツXML化と読書バリアフリー・拡大教科書への展開」について報告をおこなった。

ベネッセでは、「進研ゼミ」などの教材コンテンツのXML化を進めており、誌面データやHTMLへの自動変換、他の企画・媒体への転用を推進している。現在は、小規模の専任スタッフが中心で、理解度の高い編集者を選んでいる。

また、XMLのユーザーグループに参加し、日本電子出版協会が策定したJepaX対応の入力ツールと組版(スタイルシート)設定ツールを開発した。フリーウェアとして配布する予定である。高度なスキルや開発費がなくても、誰でもXML利用できるツールとして使用してもらいたい。
昨今、弱視や高齢者のための読書バリアフリーが社会的な課題となっており、拡大教科書も法制化されている。コンテンツのXML化が実現すれば、このフリーツールを使用するだけで、容易かつ安価に対応することができる。

■書籍データ2次利用の工程改革

宮嶋印刷の平林淑民氏は、従来通りの書籍編集・印刷データ製作(社会保険関連書籍)を優先しつつ、XMLへの変換を同時並行で行うことでリアルタイムのHTML配信が可能となった事例を報告した。

従来、その社会保険関連書籍は800ページの印刷物を製作する一方、まったく別工程でHTMLによるWeb公開をおこなっており、時間もコストもかかっていたと言う。何とか一元化できないかという課題があった。

そこで、宮嶋印刷はモリサワの組版システムMC-B2による書籍編集とXMLへの自動変換をおこなう方式を提案した。事実上、XMLをマスターデータとする方式である。
マスターがXMLであるため、HTMLへ自動変換し、リアルタイムのWeb配信が実現した。近い将来、電子書籍に対応することも容易である。
MC-B2の組版データからXMLへの変換では、HTMLで表現できない組版要素や外字などを自動的に画像化するなどの手法を利用している。また、HTMLで必要なリンク情報は事前に組版データに埋め込むといった仕組みがある。

このようにして、XMLをマスターとする一元化を実現した。印刷データ制作とWeb制作(デジタルメディア)を低コストで両立する現実的な解決策と言えるだろう。

■Webベース統合出版環境の開発

倉敷印刷の和賀山新太郎氏は、Webブラウザ経由でデータ構造の定義、自動組版のレイアウト設定、データ入力・編集と進捗確認、XMLデータ保存がおこなえるシステムを自社開発したことを発表した。

このシステムは、得意先などで専門的な知識がなくても、XMLコンテンツの入力・編集や印刷データ制作・Web配信ができることを想定している。また、ASPサービスとして提供されるため、サーバー導入が不要で初期費用を安価にすることができる。
名鑑や問題集、マニュアル・カタログ類などの制作に向いており、XML自動組版による印刷データ制作だけでなく、電子書籍やニンテンドーDS、PSP、iPhone用のデータ制作を行うという。

■

出版・印刷の分野では、コンテンツの重要性が本当に認識されるようになってきた。
つまり、コンテンツを再利用(リユース)して別の出版物に活用する。あるいは、Web・携帯サイト配信や電子書籍などさまざまなデジタルメディアに展開(マルチユース)するということが本格化してきた。

PAGE2010コンファレンスで最も入場者が多かったのが「電子書籍」のセッションで、その次がこの「XMLコンテンツと出版・印刷」である。それだけ関心が高くなっている。

このセッションで発表した3人は、各々の立場で最適な手法を考え、XMLコンテンツの有効利用を実現している。また、自社内や得意先などへ少しずつ種を蒔き、協力者・理解者を増やしている。

コンテンツをXML化することでデータの一元化をおこない、印刷物やさまざまなデジタルメディアへ展開することが、特別でなくなる日も近いのでないだろうか。

(JAGAT 千葉 弘幸)

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