印刷物作成の間口を広げるWebToPrint
掲載日: 2010年02月12日
印刷前工程を容易にして、発注機会を増やす。PAGE2010報告(5)
PAGE2010の3日目のデジタル印刷Dayのセッションは3テーマあったが、一般に知られている内容と、あまり考えられていない内容が半々という面白い組み合わせであった。この2者のギャップは大きな問題であると思う。つまり、「そんなことは知っている」、という考えと、でもそれ以上に進展しない、というジレンマが伺える。これを突破するには、「あまり考えられていない内容」に足を踏み入れなければならないが、そもそも「考えられていない」理由としてデジタル印刷ビジネスを狭く捉えすぎていて、新たなビジネスの発展の道を自ら塞いでしまっている面もある。
最初の「
デジタルプリントのWebToPrint」では、最初に
サイバーテックの小野雅史氏が、クラウド・SaaSへの流れとビジネスモデルを考えることの大切さを話、続いて
㈱ロココの福田勝志氏が、サーバーテックの提供するXMLデータベースNeoCoreと、ロココのInDesignプラグイン自動組版Metaworksの組み合わせによるWebToPrintのモデルを話した。Web経由でサーバ組版してPDFを返すサービス自体は目新しく感じないかもしれないが、コンテンツを一旦XMLデータベースに入れるので、名刺とかチラシとか印刷物の種類ごとにWebToPrintを作るのではなく、NeoCoreでのコンテンツ管理とMetaworksのテンプレートで対応するものである。
実際にはカスタムな開発になるのだろうが、共通の土台でカスタム化するので開発工数の上でのメリットがあるだろう。また両者はNeoCoreやMetaworksというツールを売っている会社ではあるが、ここではASPモデルで使用料なので初期コストはかからない。現在では名刺をクライアント自身が入力するモデルはあるが、なかなかそこから先に行きにくいところに対するソリューションといえるだろう。
エコーインテック(株)の尾頭豊社長は不動産業向けに大連で入稿の当日納品が可能な間取り図制作をしていて、その先のサービスとして各不動産の店舗で直接入力できる中古物件などのチラシ用WebToPrintを紹介した。こちらも低額の使用料で使うものだが、先にテンプレートのデザインを用意しておく必要がある。同社はそこにも中国パワーを使うことで、システムはシンプルにして紙面は多様なものを提供するようなビジネスモデルである。出来た紙面はPDFで返すが、印刷会社にフォワードできるようにも考えるという。今後はそれぞれの不動産店舗の近隣の印刷会社などをこのWebToPrintの出力先として登録するような使い方になるのかもしれない。
印刷会社の立場から考えると、前者は従来の自社開発の置き換えになる。以前はWebToPrintの開発を先行して行って顧客を囲い込むという戦術もあったが、印刷の量が減っても業務の変更にシステムをあわせていかなければならなくなり、囲い込むつもりがドツボにはまってやめるにやめられないこともあった。作りこみの弊害である。これよりはASPでLightに始めて、必要な時だけ使うのがお互いに負担感はなくなるであろう。
エコーインテックのような業界ごとのモデルがこれからいろいろと興ってくれば、印刷は迅速に作ってローカルで迅速にデリバリをすることが重要になる。チラシの場合はデリバリ対象は新聞販売店であるので、ローカルの商業界からすると年賀状を作るような軽いノリで超ローカルなチラシをWebで作って配布してもらうようなことはやりやすくなる。ここにもあらたなビジネスモデルがいろいろ考えられる。WebToPrintという技術ネタで他社に優位に立とうとか、囲い込もうとかいうのではなく、埋もれていた需要を引き出すものとして取り組めそうなテーマである。
印刷物の受注が最低何千枚という時代が過去にはあったが、いまは印刷通販でもぐっとスタートラインが下がった。デジタル印刷機を持っているところならなおさらのことである。こういったビジネスモデルを成立させるには印刷前工程を発注者に委ねて自動化するしかない。それもかなり可能になった。この分野ではこれからは如何に紙面構成を容易にするかが勝負で、容易にすればするほど発注機会を増やすことになろう。