JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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著作権に見るメディアビジネスの軌跡 記事No.#1633

掲載日: 2010年02月22日

毎年通常国会のたびに改定されているのが著作権法である。その背景にあるのが、文化産業の巨大ビジネス化、デジタル・ネットワークの恒常化であり、21世紀は著作権法の時代という人もいる。

 

時代のインフラとも言える法律であるが、対象となるモノが情報という形が無形なものだけに土地や建物、金といった従来の感覚では理解し難い側面がある。

そもそも著作権とは、印刷技術の発明や発展によって成立した法律である。つまり、情報を複製する権利としてスタートしたもので、複製する権利を実現できる唯一のメディアテクノロジーが印刷術であった。現在、著作財産権の中にある支分権といわれる具体的な個々の権利として、複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利があるが、これらは印刷をはじめいろいろなメディアの発明・普及とそれによるビジネスモデルの発展によって膨らんできたもので、メディアビジネスの軌跡といってもよい。

著作権は特許や実用新案、商標などとともに知的財産権の一つであるが、著作権には特別なものを除いて、登録制度がないのが特徴で、公表した時点で権利が発生する無方式主義を原則としているため、権利者が不明な場合が多い。日本では保護期間が一般原則として著作権者の死後50年とされているが、権利者不明な場合、死亡時期も不明ということが多い。国立国会図書館でも明治・大正などの著作保護期間が切れているだろうと推測される電子ライブラリー候補作品の7割がそうだという。文化資産としてアーカイブするには、法的根拠をクリアしなければならない。その手段として文化庁長官の裁定という方法があるが、アーカイブ自体の経費ではなく入口の調査、確認、申請などに多くのコストが掛かってしまうのが現実である。このような状況を未来に残さないためには、大きな改革が必要であるとともに、過去の財産についても同じことが求められている。Google Books検索の善し悪しは別にして、Googleの投掛けた課題は大きい。この問題は、一企業としてのビジネスのみならず、各国の文化産業、その戦略にまで影響のある問題であり、21世紀情報社会の課題でもある。

印刷メディアの記録性は歴史的にも信頼の高いものであり、他に比べる余地がないものではあるが、世界中に保管されている印刷メディアとしての原書や現物は、極限られた人だけしか見ることができず、内容確認も容易でないのが現状である。後世において複製されたり、出展・引用の形で引き継がれているだけで本当の意味で人類の共有とはなっていない。このような資産をデジタル化することで一般公開され、多くの人の目に触れることが新たな解釈、発見につながるのと同時に、埋もれたコンテンツの活性化、ビジネスに繋がっていくことは間違いない。ネット時代に相応しい共有のあり方を考える時期にきている。

デジタルの普及によって、物理的な障害を越えることができ、人類の共通資産として活用が可能になるときに、著作権がそれを阻む障害になるとすれば、本来の権利も失うことになり兼ねない。なぜなら著作権は、創作者の作品に対する独占的権利であり報酬であるが、作品が多くスムースに流通することで、権利が権利として価値あるものになるからだ。

昨今、アップル社の参入で電子書籍や電子出版がにわかに話題を呼んでいる。今回は、いよいよ本格的な普及となるのだろうか。単に紙かもしくは電子端末かという二者択一というだけでなく、人類が持つ膨大な印刷メディアの資産を再度コンテンツとして活性化するチャンスかも知れないし、デジタルコンテンツから印刷メディアという逆流時代へと突入するきっかけになるのかもしれない。それぞれのメディアが持つ特性を、どのように活かすかによってビジネスを多様にすることが重要である。

印刷界にとってもメディアと著作権の動向からは目が離せないだろう。最後にもう一度明記しておくが、それは著作権の具体的権利とは、メディアの発展から誕生したメディアビジネスの軌跡であるからだ。
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