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大型デジタル画像表示装置が新たなインスタレーションのジャンルになろうとしている。その延長にデジタルサイネージの道があるのではないか。
過日、東京写真美術館で「液晶絵画」という展示会があり、JAGATから写真関係の人が見学会で出かけた。必ずしも大型液晶ディスプレイだけではなく、プロジェクタも含めてのインスタレーションのようなものであった。プロの写真家からすると今のデジタル表示の画質や、静止画と動画の中間のような表現はとっつきにくかったようだった。また展示企画そのものも何年か前の構想だったので、今となってはそれほど刺激的ではない面があったのは事実である。
しかし評価できるのは最初に「やった」ということで、その点ではやっていない人がどうこう言えるものではない。むしろ新たなインスタレーションのジャンルになるということが大型デジタル画像表示装置の最大の特徴のように思えた。今までの静止画ではポスターに始まり電飾看板とか、最近では大判プロッタで内装やビルの壁面、バス・電車・飛行機までも飾るようなところまでいろんな応用開発があった。こういった人の行き交うところに出て行くメディア展開と「液晶絵画」は重ねあわせて考える必要がある。
つまりギャラリーや写真集の中に閉じ込められた写真ではなく、人と出会う写真を演出するということが広がっているのである。これは今までの静止画が文字どうり人がとどまってじっくり見るべきものというものから、人が環境の一部として感じるとか、人に対して能動的にささやくような、ダイナミックな表現エリアが大型ディスプレイでできつつある。すでに町の中にはデジタルサイネージが増え、環境の一部になりつつあるが、これはTVのような刺激的な動画を一方的に垂れ流すのもあり、違和感をもたれる場合もある。デジタルサイネージは単なる壁面TVとは異なって、その場の雰囲気に合わせて仕掛けることで、人を引き寄せるものという感じがする。
今日のデジタルサイネージは3つほどのパターンがあり、TVショッピングのようなビデオのショートコンテンツ、パワーポイントのプレゼンテーションのようなもの、静止画に近い雰囲気をもったものである。静止画のように思われて、その中で少しの動きをアクセントにしたものというのが意外に新鮮に受け取られることがある。これはインスタレーションにつながっていくもので、まだあまり開発されていない領域である。
またデジタルサイネージはポスターのように同じ絵を出しっぱなしにするのではなく、最も単純なのはスライドショーであるが、一般にはネットワークで画像データの配信を行い、時と場所で差し替えていくものなので、大量のコンテンツが必要になる。その意味でも画像分野の需要としてポスターのようなビジュアルの制作ノウハウがこれから活かせる所であると考えられる。ただし前述のように既存のポスターや電飾看板の単純な置き換えではなく、他にはない新鮮さや感動を与える工夫をしないと、かえってうるさがられるものになりかねないだろう。
テキスト&グラフィックス研究会 会報 Text&Graphics 274号より