JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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良い立体映像をオーサリングする時代へ

掲載日: 2010年03月03日

Visualizationシンポジウム「見えることの楽しさ」(2009.9.1)より。

立体の映像については昔に比べて今の方が騒がれないのではないかと思うのだが、それは技術的な衝撃が薄れたことと、普通のテレビでも大画面のデジタルで臨場感が非常に増したことが関係しているだろう。だからこの先に進展するであろう立体映像が狙うのは、もっと質的に優れた映像作りのテクニックであるはずだ。つまりちゃちな立体映像には意味がなくて、単に人を驚かすものでもなく、コンテンツの方から見ても必然性があって、より効果的なシーン作りであろう。

2009年9月1日(火)に開催したVisualizationシンポジウム 見えることの楽しさでは、最近身近になってきた立体映像についてのさまざまな考察や工夫について、東京眼鏡専門学校校長の畑田豊彦氏にお話いただいた。昔の立体映像と比べて近年は一般映画に近い自然な立体映像が増えているが、その裏には単に左右に映像を分けるだけでなく、奥行き感、臨場感のある映像を作るいろいろなノウハウのあることがわかった。畑田豊彦氏は、両眼式立体映像の中には原理的に違和感を感じる部分が随所に出てくるので、今までの平面映像を作るやり方で立体映像の動きを作り出すとまずい点があること、立体映像に順応して良い立体映像の条件を探し出そうとしている話をされた。

人間は前面に200度以上は視野があり他の動物よりずっと広い。トカゲの眼の構造は左眼と右眼がクロスして、両方パノラマ的に外界の映像を見ているが、両眼で見る領域はごくわずかである。人間の両眼視の範囲が広まったのは、進化していく上で手作業が発達してきたためという。普段の生活においては、特に意識して立体とは思っていないが、高齢者になると左右の眼のバランスがずれてくる。子供も幼稚園に上がる前後までに立体視が成立する。生まれつき左右のバランスが少しずれた斜視の人もいるが、3歳までに立体視機能を矯正する装置で補正することもあるという。立体視は脳が作るものということだろう。

人間の立体視は立って歩いている状態で成立する。それ以前に這っているとか、触覚的な運動感覚と一緒になって両眼視が成立して、6歳過ぎて空間が完全に安定する。人間が持っている空間再現の要因には、映画の演出効果でピントをぼかしたり合わせたりすることで奥行きを出したり、大きさによって距離感を出すことに利用されている。陰影を付けることによって、背景よりは前に出ているように見せる透視効果もある。うまく濃淡を付けたりボケを作ったりして奥行きを出す以外に、背景色が変わるとか、背景とのコントラストによって出て見えた印象が変わってくる。それ以外に動いて立体を出すものも作られるなど、今まで平面画像の中では空間の演出に苦労している。

人間は自然の中で忠実に物を見ること以外に、差分の状態、情報の差や明るさの勾配を持つなどの微分成分を頭の中でうまく利用しながら特徴を抽出している。それを逆に利用すると、錯視が出てくる。ボケや小さいものから大きいものへの変化や、明暗がくっきりしているものと薄いものでも奥行き感が出る。この3つ加えると、さらに浮き上がりや沈み込みの効果も出てくる。単独の要因では限られた範囲でしか再現できない。これらは平面での演出効果は人間の視覚で言うと分単位の奥行きくらいしか作り出していない。両眼視差でできるのは、度の単位までである。数十倍の単位まで奥行きを再現できるので、これから映像の中のものに対してアクティブな姿勢を作り出すには、心理的効果プラス、両眼視差によるもう少し大きな奥行き効果が効く。

以上のお話から、今後は画像・映像を編集する時のパラメータとして、立体化に関するものが整っていくように思える。今はまるで絵画を描くように経験値をパラメータとして積み重ねていて、それらがツールに反映していく段階である。まだ解明されていない脳生理学にもヒントがあるだろう。そのうち脳の中でどのように立体視が構築されるのかをシミュレーションするソフトも現れるのではないか。

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