電子メール時代の封筒と便箋 記事No.#1635
掲載日: 2010年03月08日
JUMP(近畿、中部)、PAGE2010セミナーでのハグルマ封筒・杉浦正樹氏のご講演に、大変大きな反響をいただいた。PAGEセミナーでこんな感激をしたのは初めてだという感想もあった。
杉浦氏の物静かで謙虚な話しぶりへの好感もさることながら、なにより強い信念に貫かれた経営戦略に心打たれた方が多かったと思う。
封筒業界の中でも大手企業ではない同社が生き残るための差別化戦略は、容易なことではなかった。メーカーの協力を得て、オリジナル用紙の開発、色による独自性、日程・納期など技術面を含め様々なことを試みたが、大きな差別化には繋がらなかったという。新しいことをやれば、必ず真似をされ、同じもの、あるいは似たものが出回る。横並び体質、郵便規制、縮む封筒市場、四面楚歌のような閉塞感を打ち破ることはなかなかできなかった。そのような中で、差別化とは容易に真似ができないものでなければ意味がないことに気がついた。
そこで従来の封筒業界とは違ったビジネスモデルへのチャレンジを始めた(杉浦氏はビジネスモデルという言葉を好まないが)。量が勝負の法人営業だけでなく生活者ニーズに合わせたコンシューマービジネスにもう一つの可能性を求め、領収書ビジネスの世界から身銭を切る自腹ビジネスの世界に踏み出した。
しかし、そこには法人営業とはまったく違った厳しさが待っていた。生活者の満足度=価値であり、生活者の思いを実現するには、単なる封筒技術だけでは不十分で、ステーショナリー文化(文房具という意味ではなく、書くものと書かれるものという意味)の歴史を背負った技術であることが必須となる。これはまさに同社の「材料・デザイン・加工方法・サービスにおいて最高の品質にこだわる」という基本方針そのものである。それができてよって初めて「その人らしいコミュニケーションスタイルを提供する」ことができるのである。杉浦氏は「作り手の一方的なブランド化ではなく使い手が感動するものづくりが問われているのだと思う。これは難しいテーマです」という。
ハグルマ封筒では、1999年に個人向けの手紙用品ブランド「ウイングド・ウィール」を設立した。もともと「羽車封筒」には、手紙を飛行機や電車を使って大切に届けようという意味がある。そこで、ウイングド・ウィール、羽の付いた車輪という意味の会社を設立した。レターヘッド、招待状、封筒、便せん、名刺、カード、グリーティングカード類などのネット販売からスタートし、2001年に直営店をオープンした。今は海外販売にも挑戦している。
欧米には特徴的なステーショナリーのブランドがあるが、日本のブランドとして「ウイングド・ウィール 」の本社を東京に置き、表参道に出店した。表参道はファッショナブルな地域で、感度の高い人たちが集まる地域、まずこの場所から成功させたいと決めていたという。それも住宅地の中に店舗を置き、通りがかりの人ではなく、わざわざ来てもらう人で商売を成功させたいという気持ちで出店した。
このように徹底したオンリーワン差別化戦略を確立してきた同社だが、実は社員の意識改革が一番難しかったという。15年前から差別化を模索し勉強会を月に1回実施、今でも開催し続けており、計100回以上は行っている。付加価値の高いものがどうして必要なのかを話し合い、「マーケットは小さくなり、人口は減っていく。このままでは必ず大手に飲み込まれてしまうだろう。何とか新しいものを提案して、紙製品業界を引っ張っていかなければ」という話を、いろいろ形を変えて今でも伝え続けている。そういう意味でも、生活者向けショップ「ウイングド・ウィール」を作ったことは大きな意識改革そのものであっただろう。
大手企業ではないハグルマ封筒が生き残るためにチャレンジした差別化戦略は、まさに今日の印刷会社のお手本の一つである。