予算のない時代には知恵を絞るビジネスを 記事No.#1638
掲載日: 2010年03月29日
先日、あるDM発送業者の方に話を聞いた。曰く、DMの封入・封緘(ふうかん)の仕事は1通あたり1円以下の単位の仕事なのだという。
そのような中、DMは前年比売上が5%くらい下がっていると言う。比較的暗い顔つきで話す姿を見て、どこの業界も大変なのだということを改めて感じた。
現在、普通郵便の中でDM(見込み客に向けて直接郵送する商品カタログや広告宣伝物)の割合は、7割程度だという。日本郵政グループから出ている統計では、1ヶ月の普通郵便の通数が15億通程度ということなので、1ヶ月に10億通もあることになる。現在はインターネット隆盛の時代なので、いかに郵便物が悲惨な状況になっているのかと思いきや、同じ統計を見ると、前年比率2~3%の減少である。1通あたりの単価がさがっているため、取扱業者としては5%程度の落ち込みとなるようだが、仕事量が2~3%しか下がっていないというのは、印刷業や広告業から見れば、まだまだパラダイスのような状況なのである。
では、他の近しい業界が売上を大幅に下げていく中、なぜDMは減らないのだろうか。実は、DMは少し減っているのだが通販が年に10%程度伸びているため、通販のカタログ発送も10%程度伸びている。DM以外のこのカタログの発送というのがプラスアルファの要素となっているようだ。DMそのもので言うと、封書から圧着ハガキになるということで通数は変わらなくても取扱金額が下がってしまう。少し前までは、DM発送をすればビルが建つといわれた時期もあったが、封入・封緘を行うだけでどのようにすれば利益を上げられるのだろう。また、利益を上げるためにどのような努力をしているのだろうか。
DMを考える時、顧客はまずコスト削減ができないかということを考えるのだと言う。しかし、コストは削減しつつも伝えたいこと、メッセージを減らすことはできない。その顧客の思いにいかにして応えるか、そこに発送業者の努力やノウハウが散りばめられている。基本的には郵便法があり、その中でかくかくしかじかでないとならないという決まりがあるが、それが実際に適合するか否かは、郵政事業の各支社での判断があり一律ではない。DM発送業者は、郵便法をしっかり解釈し、顧客のニーズに合ったものを作り出すノウハウや、郵便局や郵便法と顧客の間に立ちネゴシエーションしながら知恵を絞るという努力をし、それがビジネスとなっている。単純な例で言うと、顧客から預かったDMを市内特別郵便で安く発送できるサービス(封書でそのまま送ると80円かかるところを、50円程度の料金で送ることができる)を用い、顧客が区域別に仕分けを行っていなかった場合、それを内部で手作業で分け、それを割引料金で発送するだけでもビジネスとなりえるのだ。一見すると、発送業務は単純なように見えるが、実は裏では色々な工夫があるのだ。
さて、DMそのものが何故減らないのかと言うと、1つはコンプライアンスなどの問題からであろう。近年では、社保庁の年金問題に対する対応として多くの郵便物が発送された例があるが、保険関係の内容確認や、制度が変わる際のお知らせ、デジタル放送になるなど、世の中の制度などに変更があると、100万、1000万単位の郵便物が動く。また、選挙などの場合もそうだろう。企業や団体が出すものの中には、必須のものでこれ以上減りようがないものがある。それをいかにコスト削減しながら工夫して出せるのか、というところにDM発送業者の知恵やノウハウがあるのだ。
もう1つは、従来は郵便などの信書を発送するところ、カタログを発送するところ、もしくは印刷業者が刷りそれをDM業者が発送するという区分けがあった。しかし、現在ではその住み分けはなくなり、ボーダーレスで入り組んだ状況になっている。印刷会社が封入・封緘まで行ってしまうというところもあれば、発送業者がプリンターを導入して自分のところで印刷をしてしまうという状況も進んでいる。
そうすると、印刷会社は「刷る」ということはもちろん得意であったが、封入・封緘までするとなると、DM発送業者が持っているような知恵くらべやノウハウというようなところをビジネスにしていかなければならない状況になる。DM発送業者はまだ取り組みきれていないことにマーケティングがあるが、印刷会社としてはその部分はむしろ、顧客に近いため得意となるだろう。しかし、いずれにしても郵便法と郵便法の間に入るネゴシエーションや知恵比べに勝たないといけないのである。
やはり、このような時代を生き抜き、食べていくためには、どのようにして知恵を絞っていくかということが求められているのだろう。予算が削られても、知恵を絞ればまだまだ状況が好転するチャンスはある。