JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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資料的価値の高い古いコンテンツをオンデマンド出版で提供

掲載日: 2008年11月21日

大きな収益を稼ぐための事業というよりは、できるだけ顧客に資料としての価値を手に入れてもらおうというのが同社のオンデマンド出版の方向性である。

国語教育書籍の老舗出版社として知られる明治書院では、昨年オンデマンド書籍の出版販売を開始した。明治書院では、どのような目的でオンデマンド出版を導入し、どのような効果を発揮しているのか、また、現状と今後について、書籍局 書籍販売部 部長 橘内和夫氏にお話を伺った。

オンデマンド出版導入の契機

オンデマンド出版のきっかけとなったのは、古い本でも、年間をとおして20 ~ 30 件は在庫についての問い合わせがあるためで、その多くは図書館からである。図書館を利用している大学の先生や学生から、「明治書院から何年に出ている資料が欲しい」という問い合わせを受けることがある。

しかし、図書館では蔵書として古い本も置いているが、問い合わせの本をすべて蔵書している図書館は多くはない。そういった図書館からの問い合わせに、何とか顧客に提供できないかと考え、オンデマンド出版を手掛けるようになった。価格も低価格で抑えて、顧客から印刷製本の実費をもらい、後は手数料を少し乗せるくらいのことで始めた。

そのため、大きな収益を稼ぐための事業というよりは、できるだけ顧客に資料としての価値を手に入れてもらおうというのがオンデマンド出版の方向性である。このオンデマンド出版は、簡単に採算が取れる商売ではないため、顧客のニーズに合わせて、良書、資料を欠かさないようにすることが第一義である。既に品切れとか絶版に近いものをオンデマンドで出版することにしており、現在当社では、絶版という表示をせず、昭和初期などの古い本でも品切れという表示をしている。

オンデマンド出版に漕ぎ着けるまで

オンデマンド出版は、著者の了解が必要となるので、出版できるのは、著者の承諾を得た本に限られる。オンデマンド出版を始めるにあたり、大変苦労したのは、そうした著者の承諾に時間が掛かることであった。承諾の早い人で1 カ月くらい、遅い人は半年くらい掛かる場合がある。都内なら直接訪問して交渉することもできるが、地方の場合は、3 、4 カ月掛かることも多い。

オンデマンド出版の対象となる書籍の著者は年配の人も多く、著作時代の所在地にいないなど、連絡を取れるまで非常に時間が掛かる場合が多い。また、そうした著者に対して、オンデマンド出版自体が理解されない場合がある。「オンデマンド出版とは何か」という質問をされることも多かった。

出版業界では、オンデマンド出版は十分に知られているが、著者には、必ずしも認知されているとは言えない。例えば、重版であれば、前の版の販売が終了したので、もう1 回版を重ねるという説明になるので理解が得られやすい上、著者にとっても非常にうれしいことである。

ところが、オンデマンド出版というのはいわばコピー版なので、重版のように納得をしてもらえないことが多い。さらに承諾を得たとしても、オンデマンド出版をする時に著者から訂正や直しを入れたいという希望もある。しかし、基本的にはコピー版なので直すことはしない。当時のものをそのまま印刷するのがオンデマンド版であるからだ。それを直すと前の版と違ってくるので、直してしまうと改訂版になってしまい、意味合いが若干違ってしまう。

ただ、著者とすれば、本に対する思いがあるので、どうしても書き直したいという要望が出てきてしまう。そういう著者には、事情を説明し、直しができないことを了承してもらわなければならない。1 字や2 字直すくらいはできるが、20 行や 30 行変えるとなると、オンデマンド版の意味がなくなってしまうからである。そして、現在販売をしている書籍は、こうした経緯を得てようやく販売の許可を得られた商品である。

(『プリンターズサークル』2008年10月号より一部抜粋)

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