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XMLコンテンツ制作と印刷・出版サービス <XML自動組版から電子出版・電子書籍まで>

掲載日: 2010年05月03日

※倉敷印刷では、顧客がWeb上でXMLコンテンツを入力・編集することができる環境を構築し、XMLコンテンツを活用した印刷・出版サービスを実現している。

PAGE2010グラフィックストラックでは、「XMLコンテンツ制作と出版・印刷」をテーマに取り上げ、出版社・印刷会社の立場から、教育や法令・用語集などの分野におけるXMLコンテンツや印刷物・デジタルメディア制作とその課題などを議論した。

倉敷印刷 の和賀山新太郎氏は、Webブラウザ経由でデータ構造の定義、自動組版のレイアウト設定、データ入力・編集と進捗確認、XMLデータ保存がおこなえるシステム「InPeria 」を自社開発したことを発表した。

このシステムでは、得意先などの専門的な知識がない担当者でも、XMLコンテンツの入力・編集ができること、そのデータを利用して印刷データ制作・Web配信ができることを想定している。また、ASPサービスとして提供されるため、サーバー導入も不要であり、初期費用を安価にすることができる。

名鑑・年鑑や問題集、マニュアル・カタログ類などの制作に向いており、XML自動組版による印刷データ制作だけでなく、電子書籍やニンテンドーDS、PSP、 iPhone用のデータ制作にも対応していくという。

■Webベース統合出版環境の開発

倉敷印刷 は、2002年頃からXMLのデータベースサービスに取り組んでいる。最初にやった仕事は、「全国試験研究機関名鑑」である。約1万件の研究機関の情報が含まれた書籍であり、それまでDTPで編集していたものを自動組版できないかというのが、最初にXMLに取り組んだきっかけであった。

2003年にはWeb校正システムとして、他の業務でも応用できるような汎用システムに変更し、さまざまな業務に対応している。

「InPeria 」とは、Web上で入力したデータを、その場で自動組版して、結果が見られ、さらにバックグラウンドではXMLで保存されているというシステムである。
Webブラウザを使ってデータを入力することができ、さらに自動組版までWeb上で行えるようになっている。
自動組版のデザインを設定する画面も、Webブラウザからおこなう。Webブラウザ上でデザイン設定やデザインの確認ができるため、InDesignなどのソフトを購入することなく、誰でも使うことができる。

■InPeria開発の背景

従来のシステムや既存の自動組版システムの問題点として、初期費用が非常に高いことが挙げられる。実際に使おうとするとカスタマイズが必要であり、何千万円という値段に跳ね上がってしまうこともある。

また、従来のシステム固有の問題として、ユーザー数の増加に応えるのが難しかった。同時に組版できる人数が非常に限られていたため、例えば100人が同時に組版するとサーバーが止まってしまうというような問題があった。

さらに、データが大きくなると入力画面の反応が遅くなる。Webブラウザで操作しているので、このような問題が出てきた。
これらの問題を解決するために、InPeriaでは自動組版の初期費用を、サーバーを購入するというところを抑えることができるようになっている。ユーザー数が増えるとサーバーが自動的に増えるという仕組みになっているので、ユーザー数がどれだけ増えても問題なくなった。

■システムの特徴

InPeriaはWebクラウド上にある。まず、著者がInPeriaに接続してデータ入力、見本組などを行う。編集者もInPeriaに接続して、編集や進捗管理を行う。
データベース設計者は、データ構造の設計をする。スキーマ定義という文書の構造を定義する作業を行う。さらにDTPオペレータがInPeriaに接続して、Webブラウザ上で組版のレイアウトを設定することができる。

工程管理者は、全体の進捗を管理する。工程管理者というのは印刷会社を想定しているが、リアルタイムで文書の校了状態がグラフで表示されるようになっており、それを工程管理者は逐一見ていれば、どれだけ校了になるのかという状況を出版社と共有することができる。

InPeriaの特徴として、まずWebブラウザから実行できるという利点がある。Webブラウザからデータの入力、組版レイアウトの設計、データ構造の設計、自動組版ができる。自動組版のレイアウトは、DTPのように見た目を確認しながら設計することができる。

自動組版は、バックグラウンドでXSLというプログラムが動作する。そのXSLをInPeriaは内部的に使っているが、そのXSLを、プログラムを書くのではなく、DTPのような画面で編集することができる。見た目を確認しながら設計するので、出版社などでも自分たちでいろいろ調整することができる。

さらに、クラウドを使っているので、サーバーを最初に購入する必要がなくなり、サーバー導入コストを低減し、サーバーの増減にも対応できるという利点がある。

そして、データを入力するだけで自動的にXMLのデータとして保存されるため、XMLデータに変換することを考慮する必要もない。

■データの2次利用

このデータを2次利用する場合、最初に作成した文書の構造から別の構造に変換して、例えば小説の本文とタイトルとして流用したいという場合、画面上で線を引っ張って設定する。そうすると、新しいXML構造にデータを抽出して流用するということも可能である。

将来的にはExcelのデータやCSVのデータ等をスキーマに追加して、入力したExcelデータを別のスキーマに結びつけてデータを流用したり、あるいは入力したデータをExcelデータに入れたり、もしくは他のXMLデータに出力するといったことが、スキーマの定義でできるようになる。
これらを活用すると、XMLの2次利用も、技術的な垣根が大分下がるのではないか。

最終的に目指すところは、コンテンツの価値を相乗的に向上させることである。
印刷物やデジタルデータを出力することだけでなく、ストックされたデータ、コンテンツこそが製品であるという視点が重要だと考えている。

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