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「1,000部カタログ」のコンセプトは、よく「続きはWebで」というノリがあるが、あのノリで、「詳しくは1,000部カタログで」というような感じである。
株式会社ブリスロード 代表取締役 吉沢 昌紘 氏
ブリスロードは2000年にソフトウェア開発会社として設立したが、2003年に石丸電気からPOPのシステムが欲しいという依頼があった。我々はPOPというもの自体、全く知らない状態だったが、システムをゼロから作った。
それがきっかけになって、2005年にiPOPWebという形で、そのPOPシステムをASPサービス化した。ASPサービスというのは、インターネットを介して会員がログインし、簡単なテンプレートを選んで字や写真などを入れて必要なPOPを印刷できるというものである。そういう形のサービスを展開したところ、非常にうまくいった。現在、基本的に個人ユーザとは直接契約せずに、大きな会社がその会社の目論見の中でiPOPWebのサービスをエンドユーザに提供している。エンドユーザは無償で利用するような形で、2万人以上に利用されている。
その後、2008年になってサイネージのほうを作る機会があった。このPOPシステムは非常に簡単なシステムなので、ある会社から、「これと同じような感じでサイネージをやれないか」と言われた。
もともとは2007年頃、ある会社用にASPサービス向けのシステムを作ってOEM供給していたが、そのシステムを少しバージョンアップして、最近ではiSignWebという形で販売、提供している。これもインターネット経由で利用してもらうサービスになっている。こうして、何となくオンデマンド印刷と、何となくサイネージ、この2本立てがブリスロードの主な仕事になっている。
マスマーケティングの限界ということで、もう4大マスはだめになっている。それに対して何をしなければいけないかというと、やはりコミュニティである。ある目的とか、ある場所とか、ある何かによって小規模に集まっている、それをセグメントという表現をするが、そこに対して攻撃をする。そこを意識してマーケティングをかけるということが、非常に重要になってくる。さらに進めばピンポイントのマーケティング、One to Oneまで進んでいく。
4大メディアが危機となってきた一つの要因はインターネットであり、携帯電話である。フリーペーパーはメディアと呼ぶかどうかわからないが、今この時点においてはマスのフリーペーパーはかなりだめになってきて、やはりセグメント化されたフリーペーパーが生き残っているというのも事実である。
そして、今回のデジタルサイネージというのは、明らかにセグメント化できる。ここにディスプレイがあったら、まさにこのディスプレイを見ている人達は、何かの目的、理由によってここにいるというのが決まっているので、非常にマーケティングしやすい。
テレビや新聞、雑誌その他、インターネットも、いつ誰がどこで見ているか、聞いているかが特定できない。ところが、デジタルサイネージだけは、そこにあるディスプレイを見ている人達を完全に特定することができる。例えば営業的に言えば、ここでどういう広告を流したらいいかということが考えられていく。これからの時代は、これがかなり必要になってくると思う。
さらに、必ずしもそれだけでもない。単純に言えば、ディスプレイメーカーのディスプレイがあって、そこに何らかのパソコンあるいはパソコンを簡易型にしたSTBという機械を使って、そこにコンテンツを放映しているだけである。それは、大型ディスプレイでも、小型ディスプレイでも、あるいは電子POPと呼ばれるようなものでもいいし、最近ではタッチパネル、携帯連動などが出てきているが、そういう形で物理的に多様化している。
それぞれの目的に応じて、ディスプレイのサイズとか、タッチパネルは必要か不要かなどが判断できる。形状がさまざまだし、その利用形態も、完全にポスター的な宣伝広告を目的にしたものから、例えば役所において情報を単純に説明するために使うものまで、いろいろなものがある。何でも情報を出せるので、利用形態もさまざまである。そういうことで、いろいろなところに使われていく可能性がある。
昨年参加した展示会(「デジタルマーケティングNEXT 2009」)では、展示会1カ月前の時点では、テーマが「アンドの力」で、「オンデマンド印刷アンドデジタルサイネージ」がキーワードだというだけで、1カ月前で全くコンテンツは決まっていなくて、焦った状態で協力体制に入った。
結果からすると3週間前より近づいた頃、4本のコンテンツの内容がおおよそ決まってきた。そもそも、4本作るということも予想していなかったが、結果的に作ってしまった。
1本はALPS協議会(※デジタル印刷の研究会)としての「1,000部カタログ」のコンセプトを説明するもので、PAGE2010の予告も少し入れた。残り3本は、旅行、物販、機器メーカー、それぞれを紹介するような感じで、当日は3本、内容の違うものを、それぞれの印刷メーカーの機械で、ローテーションでやっていくという形で使ってもらった。
ここで簡単に4本をそれぞれ紹介したい。まず、ALPS協議会で流していたのは「1,000部カタログ」の説明である。この展示会に来られたほとんどの人は、「1,000部カタログ」という単語を知らない。数週間前に郡司氏が急に発声した単語なので、これを説明する必要がある。後は印刷機の横にサイネージがあるので、この関係を何とか説明しなければいけない。
特徴は、文字を書いて、何となく読ませていこうという形である。私はよくいろいろなところで言うが、情報を提供するときに、字というのが非常に重要である。例えば山手線のトレインチャンネルを見ても、フキダシのような感じで字がないと、全然情報は伝わらない。字というのは伝えたい情報である。これは字を中心にして、それを補うために絵をいくつか入れているが、基本的に字で流している。
その他の3本は、印刷メーカーのところで流してもらったものである。まず旅行のコンテンツである。今回はあまり素材がおもしろい雰囲気ではなかったが、現地の雰囲気を静かに説明するような形で作ってみた。
次は黒豆(通信販売のパンフレット)である。これはコンテンツの表現を比較的デジタルサイネージ的に作っている。丹波篠山は、私は行ったことがないが、何となくのどかないいところなのではないかと思い、そんな雰囲気の音楽を選んで作ってみた。
4本目はサイレックスのネットワーク機器を、機械を紹介するような形で作った。このサイネージを見て、サイレックスのこの商品がどんな商品か、ある程度想像がつけば、それで成功である。サイレックスのサイネージだが、サイレックスのパンフレットはコンピュータに関係ない人は絶対見ない。専門用語やカタカナも多くて難しいので、分かる人しか分からないと思う。私はその専門なので楽しく読んでいるが、そういう楽しさは普通の人はないはずである。
そこで、わざと字をやめた。「機械からコンテンツが無線で飛んで行って、どこか向こうのディスプレイに表示されるのだな」という雰囲気が伝われば、これでOKである。興味が出た人だけが、「すみません、もっと詳しい資料をください」ということで、「1,000部カタログ」の出番である。4本のうち、実はこれを一番簡単に作ったが、「1,000部カタログ」の趣旨どおりという感じがしている。
簡単にまとめると、今回の「1,000部カタログ」というのは、よく「続きはWebで」というノリがあるが、あのノリで、「詳しくは1,000部カタログで」というような感じである。デジタルサイネージから紙へクロスしていく、そういうノリで考えてもらえると、いろいろなところへ利用できるのではないか。
(全文は、テキスト&グラフィックス研究会会報 291号に掲載)
・デジタルサイネージとデジタル印刷のコラボレーション---「1,000部カタログ」の可能性---
・ほしい人にだけ届ける---1,000部カタログ