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[若手印刷人リレーエッセイ]。社員に満足してもらいつつ次世代までもつ事業を作り上げるには、「隣の畑を見つけて耕す」ことを続ける以外に方法はない。
名刺交換の際に社名にある「金箔」の文字を見られると、ほとんどの方と「仏壇屋さん?」「家には金塊があるんでしょ?」という会話になります。確かに今から145年前の創業時(慶応元年)はそのような商いをしていたようです。当時は屋号も「蒔絵屋卯兵衛」と言い、純金箔粉を扱っていたことが残されている資料からわかっております。
しかし、現在の村田金箔グループの商いの中心は、印刷業界にもご愛顧いただいている箔押し加工用「転写箔」となり、純金箔の取扱いはごくわずか…現在は当社にも自宅にも「金塊」は全くございません! 印刷業界において普通の印刷では表現し難いピカピカのメタリック感を求められる時に採用いただく「メタリック転写箔」の光沢の正体は「アルミ」です。PETフィルムにグラビアコーターで黄色を着色してから蒸着機でアルミ(銀色)を重ねることで金色に見せているのです(金箔ではなく金色箔ですね…)。
私は初代卯兵衛から数えて6世代目になるのですが、当社はその時代時代を生き残るために「光ること」にこだわりながらも、純金箔から転写箔までその取り扱い製品を変化させ生きながらえてきました。もし途中の経営者たちが、創業当時、もしくは各先代の扱っていた製品に固執してしまっていたら、当社の存続はなかったことでしょう。現在では純金箔が売り上げに占める割合はもはや数%にしかならないのですから。
この転写箔という技法は印刷業界以外にもさまざまな業界の製品に採用されてきました。先代社長はいつも「デパートの地下から屋上まですべてのフロアの製品に転写箔が使われている!」と申しておりました。デパ地下の食材のパッケージやラベル、賞味期限表示、化粧品のボトルや外箱、キラキラ光る婦人服、着物、おもちゃ、鞄、靴の中敷、文房具、ゴルフグッズ、鉛筆、弱電、AV機器…このような多岐にわたる製品の加飾に転写箔は使われています。しかし、この転写箔も変化の時期を迎えています。これまでの「光る」に加えてプラスアルファの要素が求められる時代になってしまったのです。
それ故、われわれは転写箔に新たな「機能性」を付与することに注力しております。印刷では表現が困難な美しい「超」立体感。これは金属凸版が使われる箔押しだからこそ表現できる美しさです。この金属凸版の技術も日々進んでおり、複雑な輝きから3D的な凹凸感まで表現できるのです。
また箔自体も「後印刷適性」「絶縁性」「導電性」「高耐磨性」「耐洗濯性」などのプラスアルファの機能を加えることで、これまでとは異なった業界や製品にも箔が採用されるようになっています。
そして、私の世代が「光る」にこだわりつつプラスアルファを付与する新たな製品として挑戦しているのが「ホログラム」です。これは金属の表面に微細な凹凸を付け、光の干渉を利用して7色に輝かせる技術です。お札やクレジットカードなどでご存じのとおり、ホログラムはその独特の加飾性に加えて「偽造防止性」という機能をもっています。
われわれは、扱ってきた金属箔に変化を与えるこの技術開発に取り組み、今では「日本だからこそできるホログラム開発」の宿題をたくさん頂戴するまでになりました。転写箔からホログラム箔、ホログラムフィルム、ホログラムペーパー、ホログラム粉に業態を広げることに成功したのです。
先代社長には「隣の畑を見つけて耕せ!」と言われ続けてきました。この言葉は突拍子もない新規事業への参入ではなく従来の事業と関連性のある分野への業態拡大を意味しており、ホログラム事業はこの「隣の畑」であったと思います。業態拡大はそれまでお世話になっているお客様との関係を従来どおり大切にし、ともに成長する機会を含んでおります。われわれだけが抜きん出ようとするものではないのです。
これまでの時代であれば、このホログラムの開発と生産で次世代に事業を引き継ぐネタができたことになっていたでしょう。しかし、現在の世の中の変化のスピードを考えると、とても安心できるものではありません。
また、当社が目指す企業の形の一つとして「最後まで共に働いてもらえる会社」というものがあります。社員が当社に人生を託し、未来に明るい夢をもってもらうには、企業の安定と存続なくしてはあり得ません。
今の社員に満足してもらいつつ、次世代までもつ事業を作り上げるには、やはり「隣の畑を見つけて耕す」ことを続ける以外に方法はなさそうです。幸い「箔」に関しては「印刷機でのインライン箔押し=コールド箔」「オンデマンド箔押し」という畑が見えております。印刷会社が箔押し加工を印刷機にインライン化し、箔をより使い易く感じ、付加価値をわかりやすく提案できるコールド箔。最終消費者が気軽に箔押しに触れる機会を増やすことになるであろうオンデマンド箔押し。メタリックを目にする機会が増えれば、従来の箔押し加工のマーケットにも好影響が出るでしょう。
厳しい時代ではありますが、「箔」には大きな可能性を感じずにはいられません。日本の古き良きモノの一つであると自負しております「箔」。「箔」の時代に合わせた変化と事業の業態拡大(=印刷業界の付加価値化)に私のこの人生を捧げたいと思います!
「箔、万歳!」
村田 志郎(むらた・しろう)。1968年1月9日生まれ、大阪府大阪市出身。早稲田大学商学部卒。大学卒業後大日本インキ化学工業勤務を経て、1998年村田金箔入社、現在代表取締役 専務。趣味はルアー&フライ釣り、旅行。
村田金箔グループ
創業慶応元年(1865年)、事業内容は金属蒸着箔、顔料箔、賞味期限用印字箔、金属箔粉、ホログラム製品製造販売、偽造防止加工。
東京本社:〒112-8634 東京都文京区大塚3-21-4
TEL 03-3947-6111 / FAX 03-3947-6723
大阪本社:〒545-0053 大阪市阿倍野区松崎町3-14-22
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『JAGAT info』2010年5月号