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動き出した電子書籍市場 日本のマーケットは何を期待するのか

掲載日: 2010年05月22日

アメリカで電子書籍市場の急成長は、アマゾンによるKindleの発売が起爆剤となった。Kindleのビジネスモデルの強みとは何か。そしてアメリカで 成功した戦略は、日本の電子書籍市場の今後を占ううえで、どのような意味を持つのだろうか。

いま、アマゾンのKindleに加えてアップルのiPadが登場するなど、新しい出版ビジネスの可能性を期待させるツールやサービスが揃いつつある。それにあわせるように、出版社側も新たな市場を求めて、いよいよ本格的に電子書籍ビジネスに取り組む姿勢を見せ始めた。2010年、電子書籍は出版ビジネスにどのような変化をもたらすのか。

『プリバリ印』5月号(5月10日号)では、『電子書籍奔流』を特集。本文より一部をご紹介したい。

※※※

〔本文より抜粋〕

動き出した電子書籍市場

水野 秀幸 (株)情報通信総合研究所 グローバル研究グループ

Kindleを追って急展開

(前略)

現在日本で購入できるKindleには2種類のタイプがある。大判のKindle DXは、電車の中で読むには大きくて重すぎる。Kindleの購入を申し込むと、ちょうどiPhoneやiPodのようなパッケージが届く。細かいマニュアルが同梱されていなくてもiPhoneは直感的に操作できるが、Kindleはマニュアルを見ないと使いこなせない。しばらく使用していても、ページ送りはできるがラインを引く方法がわからない、などということがある。

初代のKindleは、片手でページ送りもでき、日本向けとしてはちょうどいい大きさに感じられる。ご存じのように、白黒の電子ペーパーを用いており「紙っぽい」感じであるので、目が疲れず、自然な感じである。

アマゾンは、電子書籍の市場に何を起こしたのだろう。本年1月にアメリカのラスベガスで行われたCES(Consumer Electronics Show)という世界中の家電メーカーが大々的に発表する見本市に参加した際の知見も交えて、解説したい。

以前はこのような端末を「電子ブックリーダー」と呼んでいたが、今は「eReader」と呼ばれており、その言葉にはもはやブックだけでないという考え方が表れている。CESで発表された各社の端末は、Kindleのように白黒の電子ペーパー型のものもあれば、iPadのようなカラー液晶のものもある。また、サムスン電子(韓国)の「E6」「E101」のように手書き入力ができるものや、ビジネスマン向けの大型のタイプであるPlastic Logic(米国)の「QUE」なども発表されている。

電子書籍リーダーのマーケットは全世界で拡大しているが、出荷先を見てみるとアメリカでの伸びが顕著である。同じくアメリカにおけるコンテンツの市場は、2007年11月のKindleの発売以来急激な伸長を見せた。「電子書籍元年」ということは毎年言われるが、コンテンツ売上高の動きがあるのは、やはり2007年以降である。このような背景には、アメリカ電子書籍市場におけるSONYの参入や、Barnes & Nobleという大型書店チェーンが電子書籍の端末を発売していることも挙げられる。

アマゾンのビジネスモデルが成功した理由

なぜアマゾンは成功したのか。ひとつは、端末と通信回線もバンドルされているというビジネスモデルであるため、コンテンツの入手を容易にしたことだ。

(中略)

アマゾンはKindleのコンセプトは「本のためのiPod」であると言っている。これはもちろんiPadが出る前の話である。SONYもBarnes & Nobleもアマゾンを追いかけるような形で参入しているが、コンテンツの値段は、すべて9.99ドルが標準になっている。結局アマゾンは端末でもリードしており、コンテンツのプライスを握っていることからプライスリーダでもあるわけだ。アマゾンが動けばマーケットが動くという存在になりつつある。

よって、Kindleは「電子書籍の価格破壊」をもたらした。書籍の値段は今まで通常30ドル~40ドルと結構高額であったが、電子書籍では新刊であっても一律9.9ドル~10ドルであり、実質1000円くらいで買える。本をたくさん買う人は、Kindleに当初3万円払ったとしても、長い目で見れば元が取れるという考え方をするようだ。

(後略)

※※※

本誌の中では「日本のマーケットを考えるポイント」として「書籍の売り場」「ハードウェア」「データフォーマット」「既存のメディアの対応」「コンテンツホルダー」と5つのポイントを挙げている。印刷業界にとっても密接な関係にある、電子書籍の動向に是非、今後も注目していきたい。

(月刊「プリバリ印」2010年5月号より)

印刷の価値を新たに創造する月刊誌『プリバリ印』5月号(5月10日発売)

プリバリ5月号

【特集】2010年電子書籍奔流

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