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印刷業界は典型的な受注産業だが、餌が自分の目の前に落ちてくるのを待っているだけでは寂しい限りである。どんな種子が来ても大きく育つように畑の土だけは常に耕しておかねばなるまい。
本日から火曜日と金曜日は研究調査部がトップページの記事を受け持つ。最新技術や最新業界動向をはじめとしたお役立ち情報、時には少々重たい考えさせる内容まで発信して行くので是非お付き合いいただきたい。
さて本日は東京品川でJAGAT大会2010 を開催する。その中で成育医療センターの松井病院長にご講演いただくのだが、その意図は最近元気がない印刷業界に少しでも元気を付けていただこうということである。「印刷はこんなに世の中の役に立っていますよ」と励ましていただこうと思っている。
正確な色再現を必要とするものには、文化財アーカイブと並んで医療関係のチャート類がある。医学雑誌の症例写真は言うに及ばず、病気を判定するカラーチャートは正確な色再現が大事である。新生児で問題になる胆道閉鎖症は「お母さんのお腹にいるときに何らかの原因で胆道(胆のうから胆汁を腸に運ぶ管)が詰まってしまい胆汁が出なくなり、栄養分を消化吸収できなくなって生後数ヶ月で死んでしまう」という怖い病気である。
もちろん成人の場合でも癌などで胆道が詰まってしまい同じ症状がでることがあるが、成人の場合は血液検査などで病気の判定が可能なので一般的な病気と捉えられている。反して口の利けない新生児に対しては、なるべく早く手軽で精度の高い方法で病気の判定をしてやる必要がある。
コストが安く精度の高い方法として現時点では赤ちゃんの便の色で判定する「松井式便色カラーカード」(国立成育医療センター松井病院長が考案したもの)が普及しているが、この方法は胆汁が混ざってウンチ色(茶褐色)になり、胆汁が混ざらないと灰白色になることを利用している。
この松井式便色カラーカードは胆道閉鎖症判定に効果を上げたのだが、便色を7種類の実サンプル写真でガイド化しているため、形状や質感も異なり、色だけではなく他のファクターに引っ張られて判定してしまうデメリットも持っていた。またアナログ時代に作成しているためカラーマネージメントも不十分な時代で、職人の技術だけで行っていたために管理面では問題が多いワークフローで制作されていた。
このカラーカードの改訂計画が国立成育医療センター(小児科の頂点に位置する医療機関)で持ち上がり、縁有ってJAGATに相談が来たのだが、JAGATとしては社会的意義も大きく全面的に新カラーガイド作成のお手伝いすることになったのである。今回のカラーカードのポイントは色情報を単なるRGB(CMYK)ではなく、分光スペクトルとして扱うことで照明光等の影響を極小に抑えることを目的としている。
分光で扱えばメタメリズム(条件等色)の問題も極小に押さえられるのだ。7段階のカラーガイドの色(分光スペクトル形状)をサンプリングデータから求め、基本の画像にこのスペクトルを掛け合わせて色をレタッチ(JAGATでは分光レタッチと呼んでいる)して7段階のカラーガイドを作成するという画期的な方法を用いている。もちろん印刷するにはCMYKデータに変換する必要があるのだが、ギリギリまで分光データでハンドリングし、印刷もLabデータで管理する等、最新カラーマネージメントシステムを利用しているところがポイントである。
分光技術を有している印刷会社は多くないはずだが、家電メーカーだってIT会社だって分光色再現技術なんて知っているわけではない。大事なのは「いかにコラボレーションして自分の知識を役立てるか」が重要なのである。そういう意味で色を安定して再現できる印刷業界は、このような仕事には最短距離にいることは間違いがないと断言できる。印刷業界は典型的な受注産業だが、ただただ餌が自分の目の前に落ちてくるのを待っているだけでは、何とも寂しい限りである。どんな種子が来ても大きく育つように畑の土だけは常に耕しておかねばなるまい。
(文責:郡司秀明)