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海外の事例を見ると、さらなる電子化の可能性が見えている。本が薄くなるなど印刷会社には必ずしも良い話だけではないが、いかに読まれるものを提供するかという視点から創意工夫を提供する視点が求められている。
自動車業界初のマニュアル・オブ・ザ・イヤー
2009年のマニュアル・オブ・ザ・イヤーを受賞したのはホンダ「オデッセイ」のオーナーズマニュアルである。今までも自動車業界から各部門賞の受賞はあった。しかし、各部門賞の中から1点だけ選ばれる最優秀のマニュアル・オブ・ザ・イヤー受賞はホンダが自動車業界初である。
世界7カ国で取扱説明書の利用状況を調査し、その結果を改善に役立てた。「最も読まれない印刷物」が読まれない理由は、「本が厚過ぎる」「検索性が悪い」ことと、数字で問題が確認された。
同一車で調べると、95年モデルで500ページだったマニュアルが、04年モデルで1100ページに増えていた。カーナビが多機能化してページ数増に大きな影響を与えていることが判明した。
マニュアルは多言語対応のため、二輪・四輪・汎用製品含めて年間1000冊以上作り、言語や法規制の違いなど現地対応の必要もあり、言語ごとに表現なども少しずつ異なっていき、必要以上に複雑化していたた。
マニュアル革新の視点
取扱説明書のプロジェクトを立ち上げた。目標は①ページ数1/2、②検索性向上、③分かりやすさ向上、④世界統一スタイルの4つである。
レイアウトは日本が縦、他は横だったものを横に世界統一した。ページ数を減らすため、文章をすべて見直し、説明ダブりを取り、フォントを見直した。ページ数が減っても立体図などを使い、質感が落ちないように配慮した。
取扱説明書は表紙から延々と注意書きが続くものだが、それらは読まれないと思い切り、巻頭にインデックス機能を持たせたクイックガイドを配置して検索性を高めた。ナビの説明はCD化した。
より薄く、より伝わり、より読まれるものを
こうして工夫を重ねると、従来の42mmがCDを含めても29mmと厚さを31%薄くできた。フォントを変更するだけで、見やすくなり、なおかつ紙面を9%節減できるような発見もあった。また、ナビのマニュアルはCDに収め、読者がよく使う機能を厳選して本に収めた。
マニュアル・オブ・ザ・イヤーを受賞すると、社内外からの注目が取扱説明書制作部門に集まる効果があった。間違えずに作って当たり前で、普段は日の当たることの少ない部門である。社内の表彰制度でも「ベストクオリティー」大賞に選ばれた。ユーザーアンケートでは92%から「読みやすくなった」との評価を得た。
このように取扱説明書の分野でも各社の創意工夫が進んでいる。クライスラーは、ユーザーズガイドを60~80ページくらいの本にし、厚さのあった取扱説明書をDVDにした。
BMWは取扱説明書の内容をカーナビに収めたという。車はユーザーニーズに応じて個別に装備が異なるが、電子化すれば車ごとの装備に応じたマニュアル化が可能になる。
ただし、全てをカーナビに収めれば本が不要になるわけではない。ナビの使い方、緊急時対応などは電気依存のメディアに頼るわけにいかない。
しかし海外の事例を見ると、さらなる電子化の可能性が見えている。本が薄くなるなど印刷会社には必ずしも良い話だけではないが、いかに読まれるものを提供するかという視点から創意工夫を提供する視点が求められている。
プリンティング・マーケティング研究会2010年3月26日開催セミナー「印刷関連アワード受賞社に聞く」本田技研工業 金子裕之氏の講演から (藤井建人)