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サブカルチャーの持つパワーと印刷の存在感がコンテンツ人材の底辺拡大に寄与し、地域や地方の活性化に役立つものであって欲しい。
とりわけ暑い夏になりそうな今年の夏休、その真っ只中の8月13日(金)~15日(日)に、より一層ヒートアップする恒例の催し物がやってくる。コミックマーケット、通称コミケ(主催:コミックマーケット準備会、場所:東京ビッグサイト)である。
世界最大規模の同人誌即売会である。回を重ねるごとに大規模化したことや参加企業にメジャーな出版社、TV局が増えたことや、コスプレ参加など様々な話題に事欠かないことから報道も多く、よく知られる存在となった。昨年夏に行われた「コミックマーケット76」では東京ビッグサイト全館3日間で参加者数は延べ56万人にも上ったという。ビジネスイベントでもこれを上回る入場者数は東京モーターショーぐらいであろう(61万人)。巷の不景気を他所に東京ビッグサイト全館借り切っても参加ブースは不足しており、いくつかの特例を除いて書類審査と抽選によって選ばれるが、応募のおよそ50~70%程度しか当選しない状況であるという。参加者の中心層は中学生から30代で、下は保護者同伴の未就学児から上は70歳代後半の参加者がいる。
大規模になったとはいえ、基本は同人誌即売会で、ビジネスショウのような、メーカー、主体の展示会とは根本的に違い、サークル参加者、一般参加者もすべて対等で「お客様」はいないという理念が特徴である。プロアマ混在イベントであることが、ちょうどWebでいえば、メーカーのHPではなく、SNSやブログのような存在になっている。
最近は、サブカルチャーそのものが日本の文化戦略として評価され、戦略として海外にも積極的に展開することを国が支援し始めている。その一つであるJapan Expo(ジャパン・エキスポ)が今年も7月1日から4日までフランス・パリ郊外で開催された。15~16万人もの入場者が押し寄せたというニュースは記憶に新しい。「漫画・アニメ・ゲーム・音楽・モードなどのポップカルチャーと書道・武道・茶道・折り紙などの伝統文化を含む日本の文化をテーマとして2000年からフランス・パリ郊外で開催されている博覧会である(ウィキペディアより)」。
ただ、11回目を迎えたJapan Expoでの異変を伝えるニュースがあった。日本のお家芸ともいえる漫画・アニメに対する韓国、中国の台頭である。国を挙げての映像センター、人材育成を急いでいる。Japan Expoに韓国政府系のコンテンツ振興院のブースが初出展。文化予算も中国、韓国が日本を上回る現状に「クールジャパンに脅威、中韓挙国の育成」(朝日新聞2010年7月25日)と報じていた。
海外戦略のみならず、アニメ・漫画関連で、町おこし、地域おこしに取り組んでいる自治体や都市は少なくても150以上はあるという。とは言っても人気アニメ・漫画だから上手いくという保証はなく、安易な企画では人々の心を掴むことはできない。サブカルチャー論や定義を論じるほどの知識は持ち合わせていないが、支配的なメインカルチャーや高尚なハイカルチャーに対してマイノリティーであり、オタク的で身近な通俗的文化にこそ日本を元気にできる力の源泉があるように思える。
今年も多くの話題を巻き起こすだろうコミケの世界もクロスメディア化は自然の流れで、いろいろなツールを駆使した作品が登場するであろう。しかし、コミケを支えるメインメディアが印刷であることもしっかり受け止めることが大切である。なぜ印刷なのか。
表現者には伝えるメディアがどうしても必要である。そういう意味では誰でもがメディアを簡単に持つことができる現代の環境はサブカルチャーにとっては理想的な時代ともいえる。その一部であるコミケが印刷メディアを選択している理由のひとつが、電子メディア以上に自由度を担保できるからだと考えるのは無謀だろうか。
サブカルチャーの表現メディアとして印刷を十二分に活用することは、印刷業界にも表現者にとっても、それを利活用して地域おこし、街おこしをしたいという人たちにとっても悪いことではない。しかし、成功に導くにはサブであることの意味をよく捉え、メディアとして自らの意思や企画意図を明確にして、一緒に取り組む姿勢がメインカルチャー以上に必要であろう。
中韓の飛躍は脅威ではあるが、国による人材育成だけでは片手落ちであり、プロアマを超えたコミケのような存在が日本の底力であり、新たなメディアコンテンツの担い手に繋がるのではないだろうか。
サブカルチャーの持つパワーと印刷の存在感がコンテンツ人材の底辺拡大に寄与し、地域や地方の活性化に役立つものであって欲しい。
(杉山慶廣)