本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
製造工程全体を見渡すことができ、顧客とのパイプ作りに貢献できる重要なポストが軽視され空席になっているのであれば残念である。
■印刷物製造は専門性が高く、高度なスキルを要する
印刷物製造は、従来、企画・デザインから制作、製版、印刷・加工まで分業型の工程のなかで作られてきた。分業ということは、それだけ専門性が高く、高度なスキルを要していたことになる。
DTPやCTPなどデジタル化によって分業されていた工程が次々と統合され、結果的に少人数のオペレータによるデジタル処理に移行した。その変革のなかで問題、課題がなかったわけではない。分業の時代から自工程の知識が中心(というより他工程の知識は必要なく乏しい状態)であったため、工程の守備範囲が広くなると不具合に気付かなかったり、誤った加工を施して次工程に回してしまうことも少なくない。
従来の分業型という環境も手伝って製造工程全体の知識、スキルの習得はたいへん困難である。前後の工程の知識さえもあまり持っていないのに、その1つ先、2つ先の工程の知識や判断など容易にできるわけがないのである。また、文字、画像と一言で表すことも多いが、文字だけでも従来、文字そのものを組版するオペレータやその素材を印刷用台紙として完成させるフィニッシュワークなどに分業されていた。このように、一つ一つ分業の世界は奥深く高度なスキルが要求されていた。
デジタル化によって印刷物製造における工程数は減少したが、中身の奥深さは依然健在である。DTPに統合された工程でも、内容は多岐にわたり複雑で専門スキルが要求されるため、その習得は困難である。このような状況なので、組織的なジョブローテーションなどで対応する以外、製造工程全体の知識を得ることは容易ではない。
■顧客の期待に応える工程全体の最適化
デジタル化された印刷会社の製造部門では、改善の必要性を認識し、モノの流れ、人の動き、設備の改善などで効果を上げている。しかし、現場の改善活動は部分的な最適にとどまりやすい。さらに、現在のように厳しい経済状況のなか、顧客の課題に目を向け、顧客の期待に応えるためには工程別の最適化ではなく工程全体の最適化で対応する必要もある。
顧客の期待に応え、品質と生産性を考慮できる能力をコーディネーション機能と呼ぶと、工程全体のコーディネーション機能は、各社各様であることは必至で、その在り方、要求される資質・能力は異なる。そこには自社の戦略、方針に沿ったコーディネータがいることが望ましい。そのためには自社の技術力と人材、また得意先と内容を分析して、どのようなコーディネータの資質が要求されるか、どのようにコーディネーション機能を果たしていくかが課題になる。
印刷物製作などのモノづくりは、機器やシステムに頼る部分が多くなったが、そのようなデジタル技術の上だけで成り立っているのではなく、むしろ顧客とのコミュニケーションや地道な作業の上で成り立っている。 さらに、機器やシステムを使うのは人であり、改善を加えていくのも人である。人とデジタル技術が調和した結果、魅力ある良い印刷物を作ることができ、顧客や顧客の先に存在するユーザーに満足していただけるのである。
最後に、製造工程全体を見渡すことができ、顧客の声に耳を傾け期待に応えることによって顧客とのパイプ作りに貢献できる人材は重要である。合理化が叫ばれる今日、このような社内に一番重要なポストが軽視されているのであれば残念でならない。
■関連情報
第14期プリンティングコーディネータ養成講座