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本稿は主に産業用インクジェットプリンターにおける『紙』の立場から見たマシンと紙の変遷、問題点と課題及び将来について、前月と今月の2回に渡ってお話しするものである。本号は前月に引き続き紙の変遷の後半から始めたい。
■紙の変遷
第1世代機の紙はモノクロ主体のフォーム用紙(トリート紙)であることは前号で述べた。フルカラー化にはオフセットで事前印刷を施し、モノクロ可変データを印字-ハイブリッド印刷-することで対応してきた。
第2世代機はまさにここを白紙ロールから一気に印刷するわけで、紙には高速フルカラー印刷適性が必要となる。そしてこの頃からトリート紙の品質向上やコート紙のニーズが高まりだした。
モノクロであれば300m/分の高速印刷が可能なトリート紙も、フルカラーだと100m/分でもインク吸収が追いつかない。例えばブラックが着弾後吸収される前にシアンが着弾し、同様にマゼンタ、イエローと続くため、紙面でインクが混じり合い粒状感(いわゆるビーディング)が発生する。
この対処として吸収性を上げるわけだが、それだけでは裏抜けや滲みが生じる。これを抑えるために定着剤で紙表面にインクを留めるわけである。
一方のコート紙の場合、この手法に適う紙はまさにグラフィックアーツ用のIJ専用紙になる。グロス紙ではあまりに高価で、とても産業用には使えない。マット紙も安くはないがその派生品は欧米並びに一部国内で流通している。
第3世代機になるとコート紙に印刷することは最早使命であり、大きく2つの流れがある。つまり一般のオフセット用紙に印刷できることとマシンのポテンシャルを最大限に引き出すための専用紙の必要性である。世界的に見てもこの専用紙の開発が熾烈であり、ここでの完成度次第で第3世代機の普及、言い換えれば産業用IJの市場性が決まってくるものと考えられる。
■問題点と課題
オフセット用紙はオフセット印刷に合わせた設計である。紙のささいなばらつきも、オフセットインキを印刷する分には安定して再現される。しかし主流の水性IJインクは水である。紙のささいなばらつきがインクの着肉やドット再現の安定性など大きな品質の変化となって現れる場合がある。
他には「水」ゆえに決定的な問題を孕んでいる。それはしわやコックリング(波打ち)である。これらは紙である以上避けては通れない問題である。
下引き剤(ボンディングエージェント)を利用したオフセット用紙への印刷は特にコート紙には難しい。それは下引き剤もまた水が主体なため、上述の問題が起こる場合があるからである。
紙側からできることは大きくは2つ。物理的吸収性と化学的定着性を上げることである。一方ハード側ではインク滴制御と乾燥性アップなどが期待されるが、その仕様によって求められる紙の特性、すなわち吸収性と定着性のバランスが決まってくる。
最終的にはハードを選ばない汎用的なユニバーサル紙の開発ではあるが、過渡期においては個別にカスタマイズした専用紙が必要であろう。
■デジタルプリントの将来
別にオフセットがなくなるわけではないが、主役の座から降りることは間違いない。それは紙の多くは広告媒体であり、電子化の波で広告が大きく見直しを迫られ、旧来の紙媒体は激減していくからである。一方、電子化ゆえの新たな紙のコンテンツも生まれてくる。それに応えることこそが各メーカーの命題であろう。
紙幅の都合でかなり端折った話になってしまって恐縮ではあるが、詳細な話はまた別の機会に譲ることにして、ひとまず終わりとしたい。