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多くの印刷会社はもともと地域密着で仕事していた。地域の活性化を手伝うことで印刷会社は地元に貢献し、ビジネスにつながる。そんな思いで、地元の活動事例ノウハウを提供しようというのが利根川印刷副社長の利根川英二氏である。
○もう一度原点に戻る
湯島、本郷地域の歴史ある風情、住み慣れた街の風景を優しい色合いの水彩画で描いたイラスト『湯島本郷百景 』。NHKテレビのニュースでも取り上げられた湯島本郷マーチング委員会の町おこしプロジェクトの一つだ。その仕掛け人の1人がこの町で創業した利根川印刷の副社長である利根川英二氏だ。
地域社会に貢献し、地域が活性化すれば、そこにビジネスは生まれるはずである。この思いは実父で創業者の利根川政次会長の経営理念である「先義後利」の教えとつながる。
「経営には経糸(たていと)と横糸があります。経糸はビジネスを行っていく上での使命、目的です。そして、それを達成するためには多くの人たちの助けが必要になる。つまり横糸は人脈のネットワークです。創業者である父が第2次大戦終戦後に復員してくると、神田は一面焼け野原でした。それを見て、生かされた命を人々のために役立てたいということで事業を起しました。事業を引き継ぐ2代目、3代目の経営者としては、創業者の意志である経糸(使命感)をきちんと引き継ぎつつ、横に広げていかなければならないのです」
このプロジェクトを始めるきっかけになったのは、行きつけの蕎麦屋で聞いた地元の人からの「利根川さんは地元では大きな印刷会社だから、名刺の100枚や200枚なんか刷らないよ」という発言にショックを受けたことであった。会社が大きくなるに従って大手企業との取引が増え、地元企業の名刺などの小さな印刷物を敬遠するようになっていた。いつの間にか創業者の大事にしていたものを失いかけていることに気がついた。利根川氏は地元の名士として地域に貢献してきた父への反発もあり、あまり地元での活動に積極的になれなかった。しかし自分流に、自分の町を楽しくしていこうと考え、地元の同級生を中心に町づくりのINGを意味する湯島本郷マーチング委員会を発足した。湯島本郷に根ざした情報サービスの提供を行いながら地域の相互互恵情報の受発信を支援する。ここに住む人たちの、商店や企業などの地域活性化を支援するためのプラットフォームを作ろうということである。参加者には企業や学生など様々な人が集まった。
○イラスト『湯島本郷百景』が広げた可能性
その活動のひとつが『湯島本郷百景』のイラストである。最初は、写真が好きな利根川氏が自分で撮影した地元の風景写真をポストカードにしようとした。しかし、なかなか満足いくものができない。そこで、幼なじみで同級生のイラストレーターである上野啓太氏に、撮影した風景写真をもとにイラストを描いてもらった。水彩画の持つ優しい色合いが湯島本郷の風景とマッチして、イラストを見た多くの人から好評を得た。それが評判を呼び、湯島天満宮(湯島神社)が場所を提供してくれることになって、境内での原画展が開催できた。
「老若男女を問わないで原画の風景を話題して盛り上がる様子を見て手応えを感じました。そのときに最初はイラストをポストカードにして8枚1セットで、希望者にさしあげていたのですが、あまりの人気で販売することにしたのです」
今ではこのコンテンツを使ったポストカードや切手、名刺、カレンダーなどのほかプリントメディアへの横展開が様々な成果物を生んでいる。
地域貢献ということでまず行ったのは、この活動を理解して広めてもらうために湯島本郷地区にある36町内会に、各町内のイラストを入れた町会長の名刺を無料で作成して提供することである。
さらに郵便局に対してはイラストを使った切手の製造販売を提案した。しかし、郵便局では前例がないということで、発行まで1年2カ月もかかったが、その後は好評を得てシリーズ第2弾も発行できた。また、同じ絵柄のポストカードを作って、切手とともに販売した。このポストカードについては、今年度から郵便局ビジネスサポートという日本郵政の子会社と契約を結び、郵便局の物販ルートで販売している。このほかに、ポストカードは東京大学の生協などでも購入できる。
こういった事例が何度となくマスコミ等でも取り上げられて、その活動が認知されるにつれて、このコンテンツを利用したいという相談も増えた。
「観光協会や商工会議所などからも、イラストを活用したいという話がきています。地下鉄の合格祈願切符の絵柄として提供したり、和菓子のパッケージなどに利用したり、また新たにイラストを描き起したりするなど、町の観光振興や商業振興のお手伝いができています」
現在、湯島本郷マーチング委員会が運営する『湯島本郷百景』のWebサイトでは、ポストカードと『湯島本郷百景』イラスト本が購入できる。さらに年末に向けては、自分の好みの絵柄を選んで名刺やはがきをWebのテンプレートを使って作成して購入できるWeb to Printのサービスを開始する予定である。このほかにもイラストは原画を販売することができないので、インクジェットプリンターでレプリカを作成して、希望者には販売している。(つづく)
本社 東京都文京区 代表者:代表取締役社長 利根川政明/代表取締役副社長 利根川英二 1947年設立 事業内容:印刷・広告物制作、オンデマンド印刷事業の企画・構築、Webサイト、モバイルサイト構築&管理、運営、Webカタログ制作、映像制作、雑誌・新聞・メディア広告、総合広告プロモーション |