JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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リッチコンテンツの可能性

掲載日: 2010年09月17日

電子書籍が注目されているが、電子書籍といっても大別して三種類に分けることが出来る。

一番目が俗にいう「リフロー型」と呼ばれているテキストコードを持ち、通常はタグ付きテキストで書かれているフォーマットである。電子書籍の本命フォーマットといわれているEPUBがこれに当たり、iBooks等のコンテンツとして欧米では充実しつつある。EPUB以外のシャープのXMDFやボイジャーの.book(ドットブック)などもタグ付きテキストで記述されている。リフロー型とはビューアの形状や文字の大きさで組体裁も変化して最適状態で表示されるというものである。文字コードを持っているので、選択して意味を調べたり、リンクを貼ったり、検索したりが自由自在に行うことが出来て電子書籍らしさを味わうことが出来る。EPUBは確かに電子書籍の保守本流であることに違いないと思うのだが、現時点でInDesignから「EPUBはき出し」しようものならとんでもないレイアウトが出てきてしまい、びっくりしてしまった経験をお持ちの方も多いだろう。ワンソースマルチユースということで、InDesignコンテンツを有効利用しようと思うのは至極当然のことだが、それを実現するためにははき出されたEPUBをSigil等のEPUBエディターで成形する必要があり、「縦組み対応は!」なんて言っている以前に手間暇がかかるものである。こういう手間暇を入れると意外に大変なのが現時点でのリフロー型(EPUB)電子書籍制作事情である。

しかし、新聞や雑誌の場合は一ページの紙面デザイン自体に価値があるものなので、リフロー型よりはレイアウトを重要視する場合には新聞紙面をJPEGやPDFとして掲載するものも多い。これを「ラスタライズ型」とか「画像型」と呼んでおり、二番目に挙げられる電子書籍の種類である。単なる画像なので紙以上でも(以下でも)ないのだが、何だ?!とバカにすることなかれ、存外に役に立つことが多い。私の場合の例なのだが、雑誌の特集記事を参考に原稿を書こうと思ったところ近くのコンビニ等にはその雑誌が売り切れて(田舎なのでもともと無い可能性も)困っていたのだが、仕方なくiPadのビューン(SoftBankが提供する雑誌サイト)を検索するとしっかりその雑誌も記事も存在し、真夜中でも事足りてしまった経験がある。今までamazon.comの便利さは痛感していたが、深夜ということになると電子書籍の独壇場になってしまう。例としては色々あるが、コミックス以外の雑誌系ではヤッパのSpinMediaでオーサリングされている場合が多い。

日本の誇るコミックの多くもこのラスタライズ型となるが、ネームだけ別レイヤーにして多国籍化してみたり、データのハンドリング等色々工夫できる。ラスタライズ型は紙面をスキャニングするだけでデータが出来てしまうので、特別な編集作業等を必要とせず作り手としては手間がないが、ビューアがiPone等のスマートフォンなどではズームやスクロールを強いることになってしまう。しかし、考えている以上に慣れると大丈夫なものであるというのは、私が実際に使ってみた感想である。これも個人的なことだが長距離通勤の身としては時間の有効活用のため、音楽・読書・パソコン作業・ワンセグと色々試してみたが、最近では「ゲゲゲの女房」をiPhone(たまにiPad)で観ることにはまっている。結論としては本当に便利で重宝している。ラスタライズ型の欠点を解消するために画像とテキストを一体化したコンテンツも登場しているが、文字主体の書籍と雑誌の両方を表現できる優れたフォーマットはまだない。

紙の延長線上ではなくまったく新しいメディアの表現方法からスタートしたリッチコンテンツに「プログラム型」の電子書籍がありWIREDなどが代表として挙げられる。これが三番目に挙げられる種類になる。WIREDの場合はAdobe systems社が技術的なサポートをしているという。確かに技術的にしっかりしたところがサポートしていないと、きっちりしたリッチコンテンツを作り続けるのは難しいかもしれない。また、リッチコンテンツというと「これでもか!」とばかりに画像が回転したり、動いたり、色が変わったり、音が出たりと満載のコンテンツを前にしてしまうと少々食傷気味で引いてしまう方もいらっしゃると思う。しかし、メディアの未来を考えれば、紙や今までの動画では表せなかった表現が可能であり、新しい表現方法が生まれてくるものと信じている。これは間違いではないだろう。
この辺のコンテンツ、メディアになるとオーソリティはアメリカ西海岸あたりに集まっているが、日本にも数は少ないが存在している。その中の一人に株式会社クロスデザイン の代表である黒須信宏氏がいる。黒須氏の大学での専攻を尋ねると建築学科だという。得意な学科も数学ということで、頭の構造からして実にアメリカのデザイナーっぽい。

印刷業にとって電子書籍は避けて通れないものだが、EPUBを甘く見ると手間暇かかってしまうし、PDFだけで数年先まで持ちこたえられるわけではない。かといってプログラム型は敷居が高い。この辺のバランスをうまくやっているAD(アートディレクター)が黒須信宏氏であり、LEPS というワークフローを駆使して紙の書籍から電子書籍まで自動組版している。

テキスト&グラフィックス研究会では黒須信宏氏をお呼びして、2010年9月28日「ビジュアル指向の電子書籍ビジネス 」セミナーを開催し、食傷気味にならないリッチ電子書籍コンテンツを作る時の心構えやノウハウを毎日新聞から刊行されているiPadコンテンツ「photoJ 」を例に解説いただく。生産性・コスト・リッチ度が高くバランスされた「今現在出来る電子書籍の実際」をご理解いただけるものと思う。(研究調査部長 郡司秀明)


テキスト&グラフィックス研究会

2010年9月28日(火)
「ビジュアル指向の電子書籍ビジネス 」
新しいメディア開発とワンソースマルチユースについて考える

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