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たくさんのワザを持って競争しよう ~価格競争に逃げるな!

掲載日: 2008年12月15日

発注側の関心事は、印刷物のコスト削減ではなく印刷物による売上増によって自社ビジネスが成功することである。

(株)ビジネスコミュニケーション研究所 代表取締役 田中 信一

印刷受注の最大の武器は価格競争だ、という幻想はもうやめよう。お客様の関心事は、印刷物の発注コストを下げることではなく、印刷物によって売上増によって自社ビジネスが成功することである。ところが提案することが価格以外ない営業にとっては価格しか勝負できないのである。価格競争の本当の要因がどこになるかを真剣に見つめ直す時期である。

価格競争は、もう限界

さまざまな産業で価格競争が激しさを増し、ますます価格は低下する傾向にある。一般的には、ある産業で需要と供給のバランスにおいて、供給が需要を上回った場合に、その需要の取り合い競争の一環として価格競争が起きる。ただしこの場合でも、特定の企業だけが持つ、特定の価値(いわゆるブランド)がある場合は、価格競争を回避できることがある。自由競争が原則の社会において価格競争は当然であるが、産業として企業として、価格を含めた競争をどう戦い抜くかは経営戦略そのものである。印刷業は受注産業には価格競争しかないという考え方からは早く脱却する必要がある。

さまざまな産業を見渡してみると、利益の出しにくい産業があることが分かる。それは「売価」の決定権が「売り手」にないビジネスである。つまりある製品(サービス)を買う時に、買い手の交渉によって価格がどんどん下がり、結局売り手にもうけがなくなるビジネスは、扱っている製品(サービス)がどんなに高額だったとしてももうからないということだ。例えば、建設業界では、あるプロジェクトが100億円だったとしても、その少なくなった需要の争奪を巡って、建設各社が入札に参加するのであるが、結果として60億円の落札の場合、金額としては60億円だが、全くと言っていいほど利益がでないプロジェクトになることがあると聞く。

一方、100円ショップ、100円バーガー(80円→65円→59円→100円と変化した)、280円牛丼(現在は380円程度)、1980円のフリースなど、価格が他を圧倒する安さでしかも品質も良いという製品やサービスが存在する。業界は違うものの、品質も良く、同業他社がまねできないくらいの価格で、しかも一切値引きしないという共通の特徴を持っている。

似たような材料を使い、生産プロセスもそれほど変わりはなく、機能も同じなのに、なぜ同業他社が追随できない価格で提供できるのかというと、それにも幾つかの共通点がある。まず同じような材料を大量仕入れやグローバル調達(世界中の企業からWebでの入札)により、徹底してコストダウンを図る。また生産場所を国内にこだわらず、最も経費(土地、資材、建設費、そして人件費など)の低い地域で、ムダを徹底的に省いた生産方式を取り入れ、さらに大量に生産できる仕組みを使い、多店舗展開により大量販売ネットワークを構築し、しかも生産段階でも販売段階でも、さらなるコストダウンを実現している。

要するに、「大量仕入れ・大量生産・大量販売」を前提に、「グローバル化、省力化、標準化など」を仕組みのキーワードに、極限までコストダウンを図ることで、プライスダウンを実現しているのである。そしてそれぞれの業界において、これらのことを実現した企業は、市場を席巻し、高収益を誇っているケースもある。

業種の違いといってしまえば、それで終わりだが、"もうけ"というのは、金額の大小だけではないことが分かるはずだ。

ただし、低価格競争に勝った企業も、何らかの理由で、その優位性も長くは続かない(続かなかった)。何らかの理由というのは、個別の業界のさまざまな競争要因などにより変わるはずだが、買い手(一般の生活者)の立場で考えると、大変分かりやすい理由が見える。それは、提供する企業に問題があるのではなく、「買い手の意識の問題」ではないか…ということだ。つまり"低価格への慣れと飽き"なのではないだろうか。買い手の意識は、他と比較して品質は同等で、あまりの安さに驚き、さらに感動して購入したが、次第にその価格の安さにも慣れ、期間をおいてライバルも同様の価格で製品を提供してきたことと相まって、その魅力が著しく低下。価格が安いという魅力を失った製品や企業は、みるみる業績が低迷する。本来は価格以外にも魅力はあるはずなのに、価格の魅力があまりにも大き過ぎたため、逆にそれが足かせになり、業績悪化に拍車を掛ける。

このような状況から、われわれ印刷の仕事を見ると大きなヒントが発見できる。それは「価格」だけの競争をしてはいけないということだ。価格だけが目立って安い、つまり受注のために価格を下げる。そして受注する。その次もまた受注確保のために下げる。われわれもお客様も"慣れる"し、"飽きる"のである。従ってわれわれは、特に営業パーソンは、「価格」という武器だけでなく、「価格以外の何か」を武器に競争に挑まないと、例で挙げた産業のような結果を招くのだ。

価格競争の要因と印刷営業の責任

価格競争以外の「何らかの武器」を持ち、競争に挑むということは、コトバでいうほど簡単でない。現実の営業場面では、歴然として価格により競争が大半を占めている。しかしそのような状況を作っているのも営業パーソン自身であることも多い。例えば、新規開拓に取り組んだ場合、訪問先の印刷物を獲得するために最も"手っ取り早い"方法は、現在発注している価格を少しでも下回ることだ。また自社にも安値での受注を促進する要因があり、例えば新しい印刷機を導入した場合、それが新設だろうが増設だろうが、基本的に営業パーソンには、売上予算(ノルマ)の増額という負担がのし掛かる。印刷機は稼働を高めることで、多少工賃が低くても収益に貢献するという特徴を持っており、その特徴が低価格受注に拍車を掛ける。そして一般的に印刷会社は設備投資に積極的である。

受注産業の営業の特徴の一つである「受身の営業」も、低価格受注を促進する要因になり得る。引き合い(受注)を待つことや目の前にある受注の獲得のために、お客様にお願いするという体制や意識は、どうしても価格の交渉権が持ちにくい。このような印刷の営業特性からも、印刷業においては、受注の入り口の営業活動そのものが、どうしても価格の交渉に優位性を持ちにくく、結果的に「価格」が受注の決め手になりがちなのである。

つまり日常の営業場面では多くの営業パーソンが、このような八方ふさがりの状況の中で苦労しているわけだが、考えてみるとオーダーメードである印刷物の受注価格は、事前に決まっているのではなく、お客様と営業パーソンのやり取りによって決まるのであり、言い換えれば印刷ビジネスにおいては、営業パーソンが「受注価格を決めてくる」ということになる。つまり価格を上げるのも下げるのも、営業パーソン次第ということであり、印刷会社にとっては、その収益を左右する大変重要な立場にあると言える。問題なのは、その価格決定のキーパーソンである営業が自ら積極的に価格を下げている場面も多く見受けられるということである。これではいつまでたってももうかるはずがない。

営業パーソンは、価格競争を打破するための突破口を自らの手で発見し、広げないといけない。

(「通信教育/改訂 印刷営業基本コース テキスト実務編より)、1月新規開講予定、お問い合わせ:教育サポートセンター通信教育係)
http://www.jagat.or.jp/tukyo/syousai/eigyoukihon.htm

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