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日本型人事システムは、給料で報いるのではなく、次の仕事の内容で報いるシステムである。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能する、内発的動機づけの理論からすると最も自然なモデルでもあった。
馬車馬のように働くと言うが、人は馬車馬ではないからムチで叩けば働くというものでもない。馬を水辺に連れて行くことはできても水を飲ませることはできないとも言う。まして人間を無理やり働かせることはできないはずだ。
じゃあどうしたら人はやる気になるのか。人事労務管理論では、ファヨールの管理原則論から、テイラーの科学的管理法、マズローの欲求5段階説、マグレガーのY理論、メイヨーの人間関係論、ハーズバーグの動機付け理論、さらにドラッカーの目標管理、アベグレンの日本的経営などなど、20世紀の初頭から今日に至るまで様々な理論がこの課題に取り組んできた。
有名なホーソン実験では、観察者効果によって生産性が向上している。つまり、作業条件の違いではなく、実験対象となる労働者の「注目されている」という意識が生産性を左右した。そんなことはわざわざ実験するまでもない自明のことのように思われるが、1920年代に作業能率の向上を主眼として行われたこの実験が、メイヨーの人間関係論を導いた。
生産性を上げるには、やる気やモチベーションが重要であること、「所属する組織が関心を持ってくれている、気にかけてくれていると感じれば、組織への貢献意識は高まる」ことは、疑いの余地のないことだが、なぜかこのことが忘れられて、マネジメントの方向性が逆行していないだろうか。
東京大学の高橋伸夫教授は『虚妄の成果主義-日本型年功制復活のススメ』の前書きで、「日本型の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムだということである。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能してきたのであり、それは内発的動機づけの理論からすると最も自然なモデルでもあった。他方、日本企業の賃金制度は、動機づけのためというよりは、生活費を保障する視点から平均賃金カーブが設計されてきた。(中略)今からでも遅くない。従業員の生活を守り、従業員の働きに対しては仕事の内容と面白さで報いるような人事システムを復活・再構築すべきである。」と述べて、「日本型年功制」がいかに洗練されていて素晴らしいものであるかを説いている。
プロフィール写真よりずっと豪快なイメージの高橋教授は、企業調査にも携わってこられたことから世事にも詳しく、豊富な事例に裏付けられたお話が面白い。11月19日開催の「JAGAT経営シンポジウム2010」では、この11月8日に『ダメになる会社-企業はなぜ転落するのか?』(ちくま新書)を発刊したばかりの高橋教授に基調講演をお願いした。
さらに、高橋教授をモデレータに、他業界(ウエマツの福田社長はメリルリンチ日本証券、ディグの杉井社長は東京電力を経て、2003年に共に印刷業界に転じた経営者)の状況を見てきた経営者の目を交えて、印刷会社の経営戦略を考える。
組織力向上が収益向上につながるために、経営者・管理職・社員それぞれの役割と責任はどこにあるのか、組織はどう変わらなければならないのかを、活発なディスカッションを通じて具体策まで探りたい。
11月19日(金)開催
「経営シンポジウム2010」
やる気を引き出す「組織力」~人を活かす組織、人が活きる組織
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