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電子書籍の可能性の一つとして「ソーシャルリーディング」というキーワードがある。
「ソーシャルリーディング」とは、
いわゆる読書体験の共有といわれ、読書をしながら付けた付箋や書き込みなどをネット上で共有できるというものである。Kindleにも実装され、新しいWebサービスも色々と登場している。
自分がKindleで本を読んでいたとして、そこに著者によるものではない書き込みや付箋が見つかる。それは同じ作品を読んだ他の人がそこに追記した情報なのである。Kindleで読書をするということは、ダウンロードではなくストリーミングで読んでいると考える。時間が経過するにつれ、書籍の付記情報がどんどん増えていくかもしれない。
本を購入する際、Amazonのレビューを参考にする人はいるだろう。また、読書会など実社会で仲間と本を読み進めたり意見交換したりもするだろう。それと同じように、ネットの向こう側の人々の「ここが重要だ」というような付箋情報がシェアされるというものが発生した。
ニコニコ動画を見ていて何を楽しむかというと、動画のコンテンツ自体もそうだが、何よりコメントによる盛り上がりだろう。これは茶の間でテレビを皆でワイワイ見てるのと本質は変わらない。たまたま一緒に観てる人がネットの向こう側にいるだけである。また、はてなブックマークやDeliciousなどのソーシャルブックマークも、ブログやニュース記事についてtwitterやFacebookへ繋いで皆に知らせるといった行動も同じである。
ただ、本を購入したら知らない人の書き込みがあるというのは、古本や図書館で借りた本に、知らない書き込みがあったのと同じで、そんな本を買うのかという疑問もあるだろう。
(ただし、ニコニコ動画の登場時にYoutubeに対してネガティブな考え方がまさにそれであったと考えることもできる)
ではなぜソーシャルリーディングに注目が集まるかといえば、先のニコニコ動画のような盛り上がりと同様な勢いを期待してる部分もあるだろうが、何よりこれが電子書籍ならではの可能性を示しているからだろう。リアルでは結構難しいことだが、例えば受験勉強の参考書に何千人何万人の集合知が共有されるなど、かなりのインパクトがありそうだ。有名人や文化人の書き込みや付箋であれば、もしかしたら売れるコンテンツになるかもしれない。
しかしもちろん懸念もある。今の状況だとプラットフォームの壁があることであり、これはイコール電子書籍の販売プラットフォームの壁でもある。タグのように考えれば、コンテンツと位置と情報から成るのでオープン化してしまったほうがいいだろう。ARなどのエアタグであろうと、動画のアノテーションであろうと、本当は統一したほうがユーザにとっては便利なのだ。(JAGAT 研究調査部 木下智之 )
クロスメディア研究会
新しい電子書籍・読書体験から見えてくる「明日のメディア」