DTPエキスパートのための注目キーワード -5-
掲載日: 2010年12月12日
試験のキーワードをワンポイント解説 第5回 Adobe PDF Print Engine
Adobe PDF Print Engine(以下:APPE)とは、PDF(Portable Document Format)を直接RIP処理できるRIPである。今回は、出力フォーマットがPostScript(以下:PS)であったものからPDFになることによって出力のワークフローやAPPEを始めとするRIPについて解説する。PDFは、アドビシステムズによって開発された電子文書のためのフォーマットで、どのPCでも同じように再現し、やり取りができることを目的としている。印刷業界ではPSに代わる入稿・出力のデータフォーマットとしてされている。
PDFの入稿は、この5年で2~2.5倍に増えている。ページ物・端物など印刷物の種類によって差もあるが、Mac OS XやAdobe InDesign CSの普及で全体の約10%(ちなみにAdobe Illustratorのネィティブ・EPS入稿が約40%)を占め、出力サイドでのデータのやり取りでは、PDFでのワークフローが主流になりつつある。しかし、従来のRIPは基本的にPS対応であり、直接PDFを受け取り処理はできない。そのため何かしらの仕組みでPDF対応していたが、APPEでは直接PDFを受け取り処理ができる。
PDFは完璧なフォーマット?
印刷の出力フォーマットとして、PSはもともとプログラミング言語であり、デバイスに依存したり、新たな透明効果の機能などはサポートできず、フォントのトラブルも少なくなかった。PSの内容を見るだけでもRIP処理を行うなど容易ではない。一方PDFは、ページ単位の独立した言語で、ディバイスに依存しないフォーマットであり、フォントもエンベット(埋め込み)でき、Adobe Readerで容易に内容が確認できる。PDFのバージョン1.4以降では、透明効果もサポートしている。しかしWeb用・電子書籍用・印刷用など様々な仕様のPDFがある。そのため入稿から複数のサイトで出力データのやり取りを行ったりする出力用途では出力保障が必要で、安定したPDFの仕様(作成時の設定)が必要になる。
PDF/Xとは?
PDF/Xは、新しい仕様ではなく、ISOによって規定された印刷用途の仕様である。
PDF/X1-aの主な仕様として、カラーモードはグレースケール、CMYK、スポットカラー(特色)、画像は実画像(OPI禁止)で、フォントは全てアウトライン化もしくはエンベット(埋め込み)が定義され、印刷用途になっている。だたし、画像の解像度の定義はされていないなど留意する点もある。
PDF/X-4ではカラーモードがRGBカラー及びLabカラーも含む。さらに透明効果もサポートしている。CSなどのアプリで透明効果を使用した時、直接PDF/X-4にすることが可能になる。
PDF/X1-a運用では、透明効果を使用した部分を分割・統合の処理をあらかじめ行わなければならない。PDF/X-4での運用を行うのであれば、RIPではAPPEが必要になり、RGBデータがある時はRIPでカラーマネジメントを行わなければならない。入稿後の出力サイトでの運用でさらに出力保障が求められる場合は、PDF/XからRIP処理を段階的に施したRIPベンダーの仕様のPDFで運用することもある。
RIPは、APPEだけで十分?
APPEは、AdobeのCSのアプリケーションからダイレクトに書き出されたPDFに対応できる。透明効果のあるデータでは、PDF/X-4からAPPEでの出力もしくは分割統合の処理をあらかじめアプリ上で行いPSを作成してから従来のPSでの処理となる。PSには透明効果の記述がなく統合さてしまうので、DistillerでPSからPDFを作成してもそのままでは正しい処理、出力ができない。
一方APPEは、PSは処理できないので、PS入稿もある場合は、データをいったんPDFにするとか、2つのRIPを用意するなどの対応が必要になる。APPEでは、パーソナライズ印刷向けのバリアブルデータにも対応している。
(教育サーポート部)
例題●Adobe PDF Print Engine
次の説明文はAdobe PDF Print Engineまたはそれに関連する項目に関して記述したものである。各々の文章が正しいかどうか答えなさい。(正しい:○ 誤り:×)
1. Adobe PDF Print Engineは、アドビシステムズ社の新しいRIP技術で、従来のCPSI系のRIPがPostScriptを処理するのに対して、Adobe PDF Print EngineはPDFをダイレクトに処理することができる。Adobe PDF Print EngineによるPDFのダイレクト処理、透明効果の分割処理やRGB画像CMYK変換などのデバイスに依存した処理を事前に行う必要はなく、そのままRIPで処理することになる。
2. Adobe PDF Print Engineは、PDFをダイレクトに処理することができる。さらにPostScriptやEPSにも従来のCPSI系のRIPと同様に処理が可能である。
3. CTPの2サイト運用においてデジタルフィルムとして使用されるレンダリングの済んだ中間ファイルは、初めに中間ファイルを作成したレンダリングのエンジンと受け取るレンダリングエンジンが同一でないと、RIP結果の互換性が保障できない。しかしAdobe PDF Print Engineであれば、通常のアプリケーションでの運用とは異なり、データと作成したサイドと受け取るサイドが同じコアでなくでも、RIP結果の互換性は保証されている。
4. PDF/X-1a運用においては、RGB画像をそのまま使用することはできない。RGB運用を行う場合は、PDF/X-1aにICCプロファイルが付いたRGB形式やLab形式の使用が認められているPDF/X-3形式を使用にしなければならない。しかし、PDF/X-3では透明をRGBからCMYKに変換し分割する必要があり、実際の運用においては透明が使用できないなど、いくつかの制限が発生する。
5. EPSやPDF/X-1aのベースとなるPDF1.3では、透明を表現する機能はサポートしていない。アプリケーション上のすべての透明オブジェクトは、視覚的には透明を保持しながら、透明を含んでいない不透明度100%のデータへの変換が必要となり、この処理は「分割統合」と呼ばれている。PDF/X-1aでの運用では、この透明効果を使用した場合に、データ処理のどこかの段階で、「分割統合」処理を行わなければならない。
6. 現行のRGBワークフローでは、RGBとCMYKが混在して運用されている場合がある。この時RGBのオブジェクトに透明効果があれば、従来のRIP運用ではあらかじめ分割統合をしておかなければならない。そのためDTPアプリケーション側で、RGBオブジェクトがCMYKに変換されてしまい、ワークフロー側(RIP)でのカラーマネジメントが効かない結果になってしまう場合がある。しかし、Adobe PDF Print Engineであれば、RGBでもCMYKでも受け取ることができるので、分割統合してCMYKになったデータでも容易にカラーマネジメントを効かせることができる。
解答 1:○ 2:× 3:× 4:○ 5:○ 6:×