JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

今年はマインドを“ゼロリセット”して飛躍しよう

掲載日: 2009年01月02日

 

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎


平成21年明けましておめでとうございます。皆様にとって今年がより実り多い年でありますように祈願いたします。

表題の“ゼロリセット”は、今年の2月4日(水)から6日(金)まで東京池袋にある“サンシャインシティコンベンションセンターTOKYO”で開催を予定しているPAGE2009 のキャチフレーズです。
もちろん、この文脈からいうゼロリセットは、グラフィックアーツに関連する活動におけるゼロリセットに関するものですが、ここでは年頭にあたり、もっと広い視野からゼロリセットについて考えてみようではありませんか。

そもそも技術用語としてのゼロリセット(あるいは単にリセット)とは、機械や装置の調整ダイヤルやカウンターを0にもどすことや、システムの動作を基準状態に調整しなおすことなどを意味しています。
たとえば、ストップウオッチのリセットノブを押して計測針をゼロ秒に戻すことや、時計が正しい時刻を表示するように合わせ直す行為などは、私たちにとっても身近なものではないでしょうか。

広い意味合いでは、年明け元旦に私たち自身が決意を新たにしてやる気をみなぎらせるなどは、マインドのゼロリセットといってよいでしょう。ゼロリセットに日本語の「ご破算に願いましては」をあてはめることもできるでしょう。また、過去の成功体験や失敗にとらわれず、新たな知恵で挑戦するオバマ流の“Change!”“We can do!”と同義語だと考えても間違いではありません。

目を世界に転じましょう。 “100年に1度の世界同時経済不況が進行中” などと多くのメディアが一斉に報じています。実効性あるセーフティネットの早急な充実などは、政治や行政の責任ですが、私たちにとって最も重要なことは“ピンチをチャンスに変える”知恵を持つことです。
今世界で進行していることは、単なる経済不況ではありません。20世紀を清算して新たなより調和ある21世紀を築くためのゼロリセット期にあるのだ、という認識を私たち自身が共有し、それぞれの信念と専門性に基づいてコラボレーションすることが重要なのです。

グラフィックアーツは、メディアの重要な分野の一つです。20世紀のメディアをゼロリセットして21世紀のメディアを構築するとはどういうことでしょうか? そのキーワードの一つがクロスメディアとパーソナルロボットであることを筆者は歴史の知恵に基づいて発言することができます。
パーソナルロボットは、鉄腕アトムのような人型ロボットとは限りません。私たちの携帯電話などはまさに、個々のユーザーのニーズに対応するパーソナルロボット型メディアに向けて急速に進化をつづけています。

クロスメディアのハブということでいえば、インターネット検索サイトのGoogleは、代表的な事例の一つです。クロスメディアのハブの宿命としてGoogleもまたパーソナルロボット化の方向へ進化を続けることになるでしょう。

メディアは自然と共に人間のもっとも重要な生活環境であると共に、文化の重要な担い手であり日々淘汰圧力にさらされています。したがって、それぞれのメディアは時代の先端技術の動向が敏感に反映される宿命にあります。この場合の先端技術とは、ハードパワーのみならずソフトパワーが大きな影響を及ぼします。

メディア企業は淘汰圧力に打ち勝って生き残りを図ることが最も重要な使命です。ジャーナリズムといえどもその埒外ではあり得ません。
旧年12月16日の朝日新聞の第1面に“本社、テレビ朝日・KDDIと事業提携” 朝日新聞社は15日、テレビ朝日、KDDIと、多様なメディアを組み合わせた「クロスメディア」での新サービス創出に向け、3社が連携していくことで合意しました。
第1弾として、KDDIの携帯電話の待ち受け画面を活用した新しい情報配信サービスを、3社協業で来年夏から始める予定です。・・・・・・・・・・

朝日新聞とクロスメディアのダブルキーワードでGoogle検索すると約96,000件のデータが得られます。ご興味のある方は、一度試してみてください。

新聞やテレビなど、いわゆるマスメディアが私たちの生活環境としてこれからも重要な役割を担い続けるためには、クロスメディアのハブとしてのパーソナル端末とどのようにコラボレーションするのか? 自らの哲学の原点に立ち返って(すなわちゼロリセットして)戦略・戦術を構築しなければなりません。

これからの超高齢化社会では、ペット型パーソナルロボットをクロスメディアのハブとなるように研究・開発を進めることも必要でしょう。現在のPC端末や携帯電話などはクロスメディアのハブとしては高齢者にとって全くフレンドリーでありません。

近未来に予定されているマスメディアのゼロリセットで、わが国内で際立った事例の一つが、今日現在、国民に広く普及している地上波アナログテレビ放送を、平成23年7月24日で終了し、すべてを地上波デジタルテレビ放送(略して地デジ)に切り替える、と国の方針(担当、総務省)で決定していることを挙げることができます。

皆様よくご存じのように放送は、国民共有の財産である電波を情報伝達の手段として用いる免許事業であり、電波法と放送法によってその法的根拠が規定されているのです。そして、デジタル技術の進歩を国民の福祉向上に役立てるため、21世紀の冒頭に電波法の改正がおこなわれた際に、地デジ環境の進展を予想してゼロリセット日を平成23年7月24日と決めたのです。

このようなテレビ放送のゼロリセット関連情報は、総務省のホームページで詳しく説明されていますので、機会がありましたら次のアドレスにアクセスしてください。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/digital-broad/

地デジの最大の特徴は、光と同様な性質を持つテレビ電波の多重反射によるゴースト障害を受けることなく、高品質でワイドな臨場感あふれるハイビジョン放送を受信できることと、高齢者の福祉向上などへの発展が可能なことです。

これから長い付き合いとなりますから、皆さんがご存じないであろう『ハイビジョン命名秘話』をお披露目しておきましょう。

高品位テレビからハイビジョンへ

現代ハイビジョンの源流は、昭和39年(1964年)に開催された東京オリンピックの時代まで遡ることができます。すなわち、NHK技術研究所において『高品位テレビ』という呼び名で研究・開発が進められてきた次世代テレビです。

その時代のことは、[資料1] NHK総合技術研究所・放送科学基礎研究所:研究史‘60~’69、日本放送出版協会、昭和46年3月(PP44~45)に記録されています。
[資料1]を見ると、研究の柱はワイドテレビ方式と立体テレビ方式、そして高精細テレビ方式の3本であり、これをまとめて高品位テレビ方式の研究となっていたことがわかります。

その後、研究の進展によって人間の生理や心理的に課題の多い立体テレビ方式の研究が別建てとなりました。
そして1972年には、ワイドで高精細なテレビ方式を高品位テレビ方式として、わが国からCCIR(国連の下部組織の国際無線通信諮問委員会⇒その後、国際電気通信連合ITUの下部組織のITU-Rとなって現在に至る)に世界的に規格を統一すべき次世代テレビ方式の検討課題として提案しました。

私たちが利用している在来型のテレビ方式は、世界的には規格が統一されておらず、互換性のない3つの方式が鼎立して今日に至っています。わが国のそれはNTSC方式と呼ばれ米国などと同じものですが、お隣の中国はPAL方式で西ヨーロッパと同じ方式になっています。
そこで、グローバル化が一層進む時代の次世代テレビ方式は、世界共通の方式を開発すべきだと考えたのです。

1974年のCCIR総会で日本からの提案がHigh Definition Television(高精細テレビジョン)の規格化問題として正式に決定されました(NHKでは英語表記がHigh Definition Television、日本語表記は高品位テレビ)。

しかし、1970年代のテレビ放送の現場や関連する産業界にあっては、わが国を含め世界の先進諸国にあってもカラーテレビ放送の普及と発展が先行する課題であり、高品位テレビが大きな話題になることはありませんでした。

1980年代に入りNHK技術研究所における高品位テレビの研究は、関連機材の開発も進みアナログ方式で実用化の一歩手前までこぎつけることができました。

その後1983年には、科学万博‘85つくばの開催計画が本格化しました。NHKはこの機会をとらえ、衛星放送と高品位テレビの実験放送を展示して一般の人々に広く衛星放送の有用性と次世代テレビの可能性を知ってもらうことにしました。
また、それとは別に科学技術庁からの依頼で、つくばEXPOセンターのコズミックホールに設備する高品位テレビシステムの開発に協力することも決定されました。

高品位テレビ関連機材の開発・実用化とともに、高品位テレビ番組の開発・実用化も同時に進めなければなりません。当然のこととして、NHKの番組制作部門を統括する放送総局のプロデューサの面々にも高品位テレビの番組制作に協力するように指令が発せられました。

1984年6月のある日、当時技術本部の副本部長で高品位テレビのつくば展示に関する事項を担当していた私のところに、NHKの大物プロデューサの1人である和田勉さんがワクイチャン、ワクイチャンと訪ねてきました。

その勉さんが言うには、高品位テレビという呼び名はおかしい。だいたい品位という言葉は人間に対して使うものだ。それに次世代テレビを高品位テレビと呼ぶのなら私たちが担当している現行テレビは、低品位テレビだものね! ガハハハ

一本取られた。参ったまいった! 私はすぐさま川口幹夫放送総局長(後にNHK会長)と相談、川口さんの発案で高品位テレビのニックネームをNHK内で公募しようということにしました。その結果でハイビジョンと決まったのですが、[資料2]監修、塚本・和久井・堀之内:電子メディアの近代史~「井戸を掘った人々」の創造と挑戦の日々、(株)ニューメディア(1996.10)PP55~56により具体的に述べられていますのでご覧ください。

262_01.jpg 写真は、科学万博開催中の1985年5月30日につくばエキスポセンターのコズミックホールで日本政府が主催した、フォーラム『映像新時代』で挨拶する福島公夫総館長を映し出している400インチのハイビジョンディスプレーです。


ハイビジョンを含め放送のデジタル化が進むようになったのは、1990年代に入ってからです。それまでは部分デジタルで進められてきた技術システムがトータルデジタルの道を進むようになったのです。放送のトータルデジタル化では英国が先行、1998年には地上波デジタルテレビ放送が実用化されました。

いずれにしても今日のハイビジョンは、約半世紀に及ぶ数多くの関係者の努力が結実したものなのです。先に述べたように、それほど遠くない将来に現行のアナログテレビがゼロリセットされて、ネットに接続されたデジタルハイビジョン受信機がクロスメディア時代の有力ハブの一つとしてさらに進化を遂げることになるかもしれません。

タイトルに掲げた“マインドのゼロリセット”とは、数々のしがらみに雁字搦めになった自らのマインドを、初心(自らの哲学)に立ち返って、具体的に新たなチャレンジ目標をセットし直す、と言うことです。皆々様のご健康とご多幸を心よりお祈りいたします。

(C) Japan Association of Graphic Arts Technology