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[若手印刷人 リレーエッセイ] 「初心忘るべからず」「実るほど頭を垂れる稲穂かな」どちらも謙虚さを表す言葉です。
当社は1950(昭和25)年に創業し、昨年60年目を迎えました。創業者であった祖父は化学関係に強く、「もっと艶を出したい」「耐摩を強くしたい」といった場合などには薬品を混合して要望にあった特長を出していました。品質はそれなりに良く、概ね好評だったようですが自前で混合するため、若干安定性に欠けるところがあり、常に同じ品質が要求されるといった時代の流れもあり徐々に仕入れメインに切替えていき、やめていったようです。
ニス引きから始まった表面化工も加工方法や種類が増えていき、現在では大きく分けてコーティング系とラミネート系があります。さらに分類すると、光沢・マット・ホログラム等があり、それぞれ顧客の要望、商品イメージによってインキ保護・耐摩・耐水・耐油などの各種耐性を持たせるもの、フィルムラミネート・ホログラム加工・箔押などを施し、耐久性、美粧性や高級感を出すもの、いずれの加工方法ともに印刷物・商品パッケージの付加価値を高める効果があります。
人間は五感で受け取る情報量のうち80%以上は視覚からと言われており、商品パッケージが消費者の目に留まり、足を止めて手に取ってもらうまでの一連の動きの中で視覚に訴えかけ購買訴求力を高める上で、表面化工は欠かせないものと考えています。
超高齢化社会は更に進み、低水準で推移する出生率によって2006年の1億2800万人をピークに日本の人口減少は続いていき、2050年には9000万人を切り、2100年には4500万人にまでなってしまうそうです。今後人口増加が見込めないということは消費人口、労働人口の減少にも直結し、経済に与える影響も甚大ではないでしょうか。
消費の絶対量が少ないため、モノを作っても売れない。あらゆる企業にとって厳しい未来が待っています。印刷業界は既に成熟産業ですので、今後純粋に印刷だけの市場規模の拡大は望めませんが、iPhone・iPadに代表される端末の普及によって印刷物である出版物や書籍が電子書籍へ移行することにより印刷業の括りが拡がり、製造業であり、サービス業といった位置付けになっていくかと思います。
電子書籍市場には印刷業界だけでなく出版業・広告代理店・IT企業などが既に参入しており、市場規模が拡大するにつれて競争が激しくなりデジタルデータの編集や加工の技術もより高度なものが要求されていくことでしょう。既に多くの印刷会社がDTPの整備を済ませ、Web制作などインターネット事業にも進出しており、ノウハウや技術面では十分に対応が可能だと思います。
当社は大阪にあり、取引先も大阪が多く、受注する仕事もパッケージや紙器関係が多く出版関係の仕事は少ないのですが、今後印刷物全体の需要が減少していく状況での影響は少なからずあると考えています。供給過多となる中で受注を確保し安定経営するために同業他社との差別化を図り、当社の特色を出していかなければなりません。加えて近年の印刷機の技術は進み、高速化・多胴化によってインラインでのシルク加工・箔押などワンパスで高付加価値の印刷物が可能となっており、印刷と表面化工の境界線がなくなりつつあります。高品質・短納期・低コストなど年々厳しくなっていく顧客のニーズに応えるべく、作業工程を見直し業務の効率化を図りながら、我々表面化工の専門会社としては更なる加工技術を打ち出していく必要があります。
私自身、会社に入り10年が経ち、立場も社長になり、たくさんの経営者の方とお話させていただく機会も増えましたが、共通していることは皆さん謙虚だということです。経営の神様と呼ばれ、松下電器を一代で築いた松下幸之助氏も「いくつになってもわからないのが人生というものである。わからない人生をわかったつもりで歩むほど危険なことはない」と言い、生涯謙虚に生きることの大切さを色々な人から学んだといいます。経営者として、一見大胆に決断しているように見えて実はとても慎重に物事を進めていたので、失敗が少なく成功を収めたそうです。
「初心忘るべからず」「実るほど頭を垂れる稲穂かな」どちらも謙虚さを表す言葉です。私も仕事だけに限らず何事においても「謙虚」の気持ちを常に持ち続け、日々励んでいきたいと考えています。