本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
EPUBは、現時点で世界の電子書籍の代表的なフォーマットであり、2011年には縦書きやルビなど日本語に対応したEPUB3.0が策定される見通しとなっている。このセッションでは、EPUB3.0の最新動向と制作方法について取り上げ、電子書籍の未来を考えた。
■EPUB日本語拡張プロジェクト
EPUB日本語拡張プロジェクトは、統一フォーマットや書誌情報の事業と並ぶ総務省の新ICT利活用サービス創出支援事業の1つである。
世界の電子書籍リーダーで日本語の電子書籍が簡単に読めることを目指して、EPUB3.0の策定に取り組んでいる。
EPUB3.0は、Webの標準化団体であるW3Cの規格と一体となって策定が進められている。W3Cの策定したXHTML、進行中のCSS3-Textをベースにしているほか、W3CのテクニカルノートでJIS組版規則に相当する「日本語組版処理の要件」も参照している。
W3CやIDPFの開発は、すべてオープンとなっている。そのため、オープンソースのWeb描画処理開発キットであるWebkitでは、先行してEPUB3.0のビューアー開発が進んでいる。
また、EPUB3.0では、小説など文章物だけの利用に留まるものではなく、コミック、雑誌、教科書、新聞、事典などでも利用価値が高いものとなる。
■汎用書籍編集・制作サービス
印刷と電子書籍の両方に対応した書籍編集・制作ワークフローを実現するには、誰でも簡単にXMLコンテンツを生成するソリューションが必要である。それを実現するのが、アンテナハウス社が開発中のクラウド型編集・制作サービスである。
このサービスでは、書籍の構造をマップとして記述し、マップに沿って記事を組み立てる。Wiki記法を拡張した簡単な記法を採用し、XMLの知識も不要である。誰にでも簡単にXMLのコンテンツを記述することができる。
EPUBやPDF出力のためのスタイルシートも、予め用意されるし、カスタマイズも可能である。
■トッパンの電子書籍制作方法とEPUB対応
凸版印刷は、電子出版事業のサポートのために「デジタルコンテンツソリューションセンター」を設立し、電子出版と印刷物を並行で制作できるマルチ制作ラインを整備した。
自社のオリジナルCTSプラグインを搭載したInDesignが、凸版XML形式のデータを書き出す。凸版XMLから電子書籍自動変換ドライバを経由して、XMDFや「.book」「EPUB」など、各種の電子書籍フォーマットに対応する。
また、マルチデバイス対応として、画像サイズ、外字処理、字下げ量などを指定し、タブレット用、スマートフォン用、携帯用へと変換することができる。
既にXMDFや「.book」は、サービスを開始している。2011年5月のEPUB3.0策定と同時に、EPUB3.0への変換サービスを開始する予定で準備している。
EPUBへの対応として、2010年よりIDPFの活動に参加し、多言語拡張の提案にも加わっている。
電子書籍コンテンツとしては、既存フォーマットからEPUBへのシフトがおこなわれると見込んでおり、CSSやフォント埋め込みを使った表示品質の向上、コミックの新たな表現、Unicode6対応などが課題となる。
従来は、印刷物製造がメインで電子書籍はオプションというレベルで考えていたが、今後は印刷物も電子書籍も、すべて同時に製造するといった方式を追及していきたい。
このセッションでは、EPUB3.0の全体像や完成度が見えてきたこと、電子書籍時代に対応した編集制作システムが求められていること、さまざまなフォーマットやデバイスに対処するための工夫が必要なことなどが示された。
EPUB3.0が策定されると、電子書籍における日本語表現の可能性が大きく拡大する。たとえばiPadやスマートフォンでの電子書籍コンテンツ提供も、一気に拡大することとなる。
つまり、EPUBコンテンツの量産体制が必要とされるようになるだろう。
既存のメディアよりWebでの情報発信が先行することを「Webファースト」と呼ぶことがあるが、「電子書籍ファースト」と呼ばれる日も近いと思われる。
(文責 : 研究調査部 千葉 弘幸)