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電子書籍に注目が集まっているが、表示フォントや組版方式など課題も多い。電子書籍に必要な文字種、フォント、ビューアーを考える。
モリサワは、InDesignなどのDTPデータから、モリサワ書体を組み込んだアプリを作成する電子書籍ソリューション「MCBook」を提供している。縦組やリフロー方式、外字にも対応している。株式会社モリサワの技術本部統括、日下肇氏に話を伺った。
■電子書籍の基盤技術
モリサワの主力製品はMORISAWA PASSPORTで、多くの印刷会社に使用されているフォントである。また、携帯電話向けにデータ量をコンパクトにした組込フォントも出している。
組版システムでは、広辞苑など辞書・辞典、数学や物理の教科書などに利用されているMC-B2がある。これらの技術を応用した電子書籍のソリューションが、MCBookである。
通常のスマートフォンが採用しているのは、JIS第1~第4水準(JIS X 0213)であり、11,233字ある。モリサワが書籍を印刷するために推奨しているのは、Adobe-Japan 1-6、23,058文字である。印刷用に使われている多くの異体字を含むため、電子書籍でもこれらの文字を扱い、表示するソリューションが必要となる。
現在、Adobe-Japan 1-6が入力できるソフトは、モリサワのMC-B2とAdobeのInDesignしかない。これらのソフトで作られたコンテンツから変換ソフトMCBook Makerを使って、電子書籍コンテンツに埋め込む。それを表示するのが、MCBookというビューアーソフトである。
入力・変換・表示ソフトとAdobe-Japan 1-6というフォントがあって、初めて23,058字の入力とデータ変換、表示ができる。
■MCBookのコンセプトと構成
まず読者が読みやすいことが重要である。ケータイのように行頭に句点が来るものは、許されない。書体や文字サイズを変えられ、ルビを表示したり消したりできる。
2番目は、短時間・低コストで電子書籍コンテンツを作ることが可能である。
3番目は、印刷用のDTPデータをそのまま利用することができる。出版社としては印刷物との同時発刊が実現でき、印刷会社にすると印刷物と同時に電子書籍の仕事を請けることができる。入力・コンテンツ制作・ビューアー上で文字セットの統一が取れるため、ゲタが出ることもない。
MCBookソリューションは、3つのソフトから構成される。電子書籍コンテンツ変換ソフトであるMCBook Makerは、InDesignやMC-B2からドラッグ&ドロップするだけで、書籍コンテンツに変換することができる。リンク付けや組版など、編集作業を行う機能もある。
MCBook iPhone Builderというソフトでは、MCBook Makerからモリサワフォントとコンテンツを一体化し、iPhoneアプリとして書き出すことができる。さらに、制作したアプリを校正する作業は、MCBook Shotというソフトを使用する。通常の環境であれば、画面上でしか確認できないが、iPhoneの画面キャプチャーを面付けしてPDF化することで、校正が容易である。
その他、MCBookでは、書体は漢字3書体、かな3書体を選ぶことができる。InDesignで設定した段落スタイルや文字スタイルが継承される。
アプリ上の文字サイズは、iPhone上ではピンチイン、ピンチアウトという操作で変更することができる。
■今後の課題
iPad向けの最新版では、音声付き動画を埋め込み、再生することもできる。iPadを横置きにすると、見開き表示に変わる。
MCBookは、現在は一体型アプリだが、近い将来書店型アプリも出す予定である。
組版機能では、ページ仕様・ルビ機能の充実、段組に見出しを入れる、段組の中に画像を置いて画像の回り込みをするなど、紙の本に近い組版機能を入れていこうと考えている。
(テキスト&グラフィックス研究会)