JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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できたて「本があったかい。」

掲載日: 2011年04月19日

欲しいときに必要な部数を店頭で印刷。そんなことが実際に始まった。注文すると客の前で印刷・製本して、その場で出来たての本を手渡すのである。

そんなサービスを実現したのは三省堂書店オンデマンドで、注文して本が出来るまで約十分、コーヒーを飲む間もないくらいだが、実際に現場に行ってみると、みんな本の出来る様子を食い入るように見ているのである。大昔、真空管テレビを修理に来る電気屋さんのやることを見入っていた子供時代のことを思い出してしまった。現在でも通用する今川焼きしかり、手打ち蕎麦しかり、デコ電(デコレーション携帯)しかりである。このように究極のオンデマンドは客の見ている前でやることというのが良く分かる。

話しはまた旧くなるが、サービスビューロー(出力ショップ)がデジタル化と共に始まった際、お客の反応は「実際にオペレータの人と話せるのが何にも増して良いね」と言われていたのを思い出す。サービスビューローでは実際に出力しているオペレータとデータの作り方について具体的に話せたのだ。またスキャナでも具体的な品質アップの方法が簡単にサジェスチョンされるのは実に衝撃的だった。
今までは営業の人がお客との唯一の接点で、「大丈夫です」「頑張ります」「ウチに任せてくれれば」と訳の分からないことばかり言っていたのとは、全く異なる現場チックなやりとりは目から鱗だったはずだ。「ここが重要みたいですが、本当はこっちの方が重要です」「この色を増やすのではなく、こっちの色を減らした方が見栄えは良いんです」という具合なのである。

三省堂では米オンデマンドブック社のエスプレッソ・ブック・マシンを使って全自動印刷・製本システムを実現している。自動今川焼き機を意識しているのか、実機も中のよく見えるシースルータイプなので、前述したサービスビューロー向きなマシーンである。元々三省堂では品切れ本を無くしたくて導入したということだ。「あの本をもう一度・・・」という感じで、長期品切れ本も10分で手に入るサービスだ。注文できる本はデータ化されているもので、リスト化しているのだ。70年代の青春のバイブルなど、軒並み絶版になっているので需要は多い。神田のど真ん中なので個人出版も期待されたが、現在のところは出版社が発注元というケースが多いようである。日本特有の現象かもしれないが、品切れ本が欲しいという需要は必ずある。またゼミの講義や研修に使うテキストにはこのエスプレッソマシンは最適であり、学校・図書館・企業のオフィス文書にオンデマンド印刷は活躍できる。

その他、海外の学術書・専門書が必要な場合にも300万点の洋書の中から希望の商品をサクッと印刷できる。また大活字本もエスプレッソマシンの絶好のターゲットであるというのは想像いただける通りである。(文責:郡司秀明)

関係セミナー
JAGATカンファレンスin JP  「POD その場で出来る印刷・製本」
日時: 2011年5月13日(金)15:00-16:30
スピーカー: 株式会社三省堂書店 企画室長 児玉好史(こだま・よしふみ)氏
JAGAT 研究調査部長 郡司秀明

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