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学参・教育、法令集、マニュアル、辞書など、ドキュメントをXMLコンテンツとして保管し、印刷データや電子書籍に活用する方法が徐々に普及しつつある。しかし、DTPワークフローからXMLワークフローへと移行することは簡単ではない。サイバーテックの小野雅史氏にXMLコンテンツ制作の課題について話を伺った。
電子媒体として利便性やインタラクティブ性を持たせた出版に対するニーズが増えてきた。出版社や印刷会社でも、新たなワークフローを考えなければいけない時代がやってきた。しかし、印刷物とする前提で作られた出版コンテンツを電子媒体へと変換することは簡単ではない。
出版物のコンテンツ管理には、DTPデータによる方法とXMLによる方法がある。しかし、DTPデータを電子化するには、手作業での加工が必要となるだけでなく、結局はアプリケーションに依存した方法となる。データのライフサイクルを考えると、将来、バージョンやOSが変わって、価値が下がってしまうリスクもある。
それに対してXMLは言語であり、コンピュータで自動処理が容易にできる。出版物の構造を人の目で見る形で表現できる。ソフトウェアに依存しない汎用性があり、アプリケーション依存やデータの陳腐化リスクがない。しかし、導入するには敷居が高いと言う問題がある。
教材やマニュアル、辞書、専門書籍、約款、論文などは、そもそもドキュメントの構造がわかりやすい。そのため、XMLを利用して構造化し、意味づけすることは非常にメリットがある。これによって制作の効率化が実現し、再利用や二次利用など多様な書籍の出版が可能となる。
また、カタログ、雑誌、チラシ、フリーペーパーなどの出版物は、構造化というよりはデザイン優先である。しかし、対話性、検索性、娯楽性などの価値を持たせるには、メタデータ(属性情報)をXMLで記述することが必要となる。
現在、多くの出版社には技術者がいない。今後も、出版社がXMLの技術者を抱えるのは困難だろう。制作・印刷会社から見ると、出版社側がぶれてしまうと言う問題がある。本来なら全体を俯瞰して、「紙はこうだ、電子データはこうしよう」とできることが理想だが、そういった人材は少ない。
Adobe InDesignからXMLを書き出す機能によって電子書籍を作ることができると期待している人も多い。しかし、実際にはInDesignで作る時に、ある程度、構造化や意味を意識して作らないと、使い物にならないXMLができる。
コンテンツをXML化する手法を研究するために、ワークフローの分析を行っている。出版社のXML業務フローの話を聞き、企画、紙面要素、スキーマを作成し、図版を作成するワークフローを整理してみた。更にそれを検証するために、高校の教科書のXML化にトライしている。最終的には、スタイルシートを作成し、組版ソフトでPDFとEPUBに出力するところまで、進めてゆく予定である。
電子書籍というと、EPUBなどのフォーマットや端末、ビジネスモデルの話が先行しているが、コンテンツの管理や制作効率化、ワークフローの話を忘れてはいないか。XMLによるコンテンツ制作・管理の問題を解決するには、出版社、印刷会社、IT企業の三者がノウハウを持ち寄って、継続的に協力することが重要である。
(テキスト&グラフィックス研究会 『JAGAT info』2011年4月号より)