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新しいビジネスを立ち上げていく中で、自社の強みをどうシナジーを生ませて、その中で差別化をしていけるのか。自社の強みも含めてWeb to Printのビジネスを考えていくことが重要だろう。
株式会社バリューマシーンインターナショナル
取締役副社長 宮本 泰夫 氏
Web to Printのサービスの中身は大きく3つある。1つはデータアップロードを中心としたサービスがある。これはいわゆるファイル伝送である。データを作るのはお客様である。例えばPDFにフォントを中に埋め込んだ形で全部のデータをきちんと作ってもらう。それをアップロードしてもらえば、そのままそのイメージを印刷するというのが主な形になる。
2つ目は、インターネットで編集機能の提供を行うサービスである。いろいろな商材が考えられるが、オーダーをするとき、幾つかのデザインの中から選択をして、自分の好みのものに自分の情報をオンラインで編集して、画像を貼ったりテキストを打ち込んだりして発注するというサービスの形である。
この場合には、印刷の仕様は予め決定済みのことが多い。紙質や厚みについて理解していただいた上で注文してもらうケースが多い。もしくは、アップロードもできるし編集もできるといったようなサービスが、世の中では多いのではないか。少し広い範囲で提供できるサービスもある。
3つ目は、バリアブル印刷を利用したサービスで、上2つと違って少し変わり種ではあるが、予め印刷すべきエレメントをサーバに格納しておき、それを指示されたとおりに差し替えたり、ページ順を書き換えたりする。例えば、ある生徒さん用の問題集を作るとか、そういった特定のアプリケーションの中で使われるWeb to Printの仕組みがある。
クライアント側から見ると、インターネットというインフラを使うので、時間の制約を受けずに、昼型の人は昼、夜型の人は夜に発注できる。ネットを使って、人が動かずにデータがやりとりされるので、短納期で受領できるのがクライアントのメリットだろう。
インターネットを使うもう1つのメリットは、会員化だろう。どこのサービスもそうだが、会員を募って、マイページにデータを保存できる。今まで注文したものも再発注できるという、お客様に向けてのサービスの機能を持ち、継続的なクライアントとのコミュニケーションが可能になっている。そういったことを含めて情報提供が受けられるというクライアント側のメリットもあると思う。
コストの面では、プロダクションフローへ自動的に接続していくことで、製造工程をある程度自動化できる。また、複数のジョブを大判の版の上に合わせて付け、単体では小ロットでも、割り付けをしていろいろなジョブを大貼りしてコストを下げるというようなことが実際に行われている。そういった工夫の中で、クライアントはコスト的に安いものを手に入れられるメリットがある。
運用事例として、グラフィック、プリントパックなどが運用している印刷通販サイトを紹介する。両社ともにインターネットを中心にした印刷通販で、低価格でオフセット印刷のクオリティを提供する。デジタル印刷の商材もあるが、平台の印刷機を使ったビジネスを展開している。年商で50億円、100億円を稼ぎ出すというサイトである。
オフセット印刷でもコストを下げるために、ジョブの付け合わせをしている。いろいろなサイズのものを付け合わせて、印刷機の稼働を最大限活かす。もしくは、用紙の無駄を最小限にすることが、オフセット印刷でもコスト削減の施策では効果的と言われている。
データトラブルの低減というポイントでは、Windowsのデータ等、普通にプリントしても括弧がちょっとずれたようなものは、PowerPointで作ったデータなどだと起こりうる。
そうした印刷時にトラブルの出やすいデータを、事前に色も含めてどういうふうに処理するのか。これは2社とも同じツールを使っているが、日に1,000~2,000ページが処理できるような前処理のデータ編集のツールを中で持ち、色やデータのトラブルを最小限に抑えている。中に入っている多くの商材が注文できるサイトである。
次に世界最大の印刷通販、VistaPrintを紹介する。同サイトは全世界で130ヵ国以上にサービスを提供しているが、印刷工場は世界に2ヵ所しかない。日本から注文しても、恐らく海外で刷られて届く。これも同じ仕組みである。
ここでは日本語のドキュメントの横にロシア語のドキュメントが付け合わされて印刷機が回ることが、実際に行われている。そうすることで、例えば刷版の費用や印刷機の稼働が休眠となる時間を極力削減する。紙に関しても同じで、無駄を省く。
バックエンドで動かしているのは、MANローランド社のPrintnetというソフトがベースになっている。日に何万という注文の用紙サイズ、ページ数、部数から、「ジョブを組み合わせて、どのサイズの上にどう面付けをし、付け合わせて印刷するのが最も効率的か」計算して、データを組み合わせて印刷機に送り出すまでを、裏側の仕組みが行う。
印刷機のオペレータは、印刷機の前に立ちボタンを押すだけらしい。毎月10万人以上会員が増えているサイトである。
さまざまなところに、インターネットを使ったWeb to Printサービスが身近に生まれてきている。
Web to Printの仕組みをシステムとして見ると、性能や技術のすごいところにまず目がいく。「こんなこともできるのか、これはすごい」と。もちろん、それはビジネスを始める、もしくはシステムを選ぶ、仕組みを使う上で重要な1つの要素だが、それだけではない。
例えば、周辺技術やシステムとうまくつながるか。この仕組みを使うと効率的に運用できるか。誰に対して何をするか。どういう印刷物をこのWeb to Printの仕組みを使って、Web to Printのビジネスとして展開していきたいかという、将来性や可能性も含めたアプリケーションの要件である。
もう1つは、運用やサポートの要素である。運用と管理・メンテナンス、アフターフォローといった、いわゆる道具としての完成度と、メーカーサポートといった側面。このように、1つの道具を選ぶ中でも、4つの方向を見ていかないといけない。
併せて、こういう道具を使って新しく始める、もしくは新しいビジネスを立ち上げていく中で、仕組みだけの問題ではなく、自社の強みをどうシナジーを生ませて、その中で差別化をしていけるのか。ビジネスとしてのポイントと併せ、自社の強みも含めてWeb to Printのビジネスを考えていくことが重要だろう。
(テキスト&グラフィックス研究会会報より一部抜粋)