本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
Adobe Creative Suite 5.5がリリース
●Creative Suite 5.5の登場
2011年4月11日にAdobe Creative Suite 5.5の発表があった。次はCS6だと思っていた方も多いと思うので、ちょっとびっくりしたのではないだろうか。これまでAdobeは、基本的に18カ月のサイクルでバージョンアップをしてきた。しかし、そのサイクルでは、目まぐるしく変化する環境の変化についていけないため、メジャーアップグレードのサイクルを24カ月に伸ばし、必要に応じて今回のような「.5」のバージョンを1年単位で投入していく方針に変更したようだ。ただでさえ、バージョンアップのタイミングが早く、金銭的にも負担が大きいという意見が多い中、今回のバージョンをどうするかは、なかなか難しい判断となるだろう。
CS5.5では、すべての製品がバージョンアップされるわけではない。Photoshop、Illustrator、Fireworksはそのままだ(正確には、PhotoshopやFireworksには無償でCS5.1のアップデータが提供される)。それ以外のアプリケーションがCS5.5にバージョンアップされる。つまり、DTPで使用するアプリケーションではInDesign(とInCopy)のみがCS5.5になるというわけだ。
また、今回のバージョンアップで特徴的なのが、新たにサブスクリプションという購入方法が提供されたことだ。これは、モリサワパスポートのように年間、あるいは月単位で契約してアプリケーションを使用出来るサービスで、契約期間中に新しいバージョンが出ればもちろん最新のバージョンが提供される。とは言っても、アドビストアからしか購入出来ず、金額的にもこれまでの製品をバージョンアップして使用するよりもトータルでは高く付いてしまうので、一時的に人数が増えたようなケースでの使用に対応する方法となるだろう。
●InDesign CS5.5は何が変わった?
InDesignもCS5.5にバージョンアップされるが、基本的に印刷に関する機能はCS5から特に何も変わっていない。今回のバージョンアップでは、主に電子書籍に関する機能が色々と進化していると思って良い。
まず、Adobe Digital Publishing Suite(詳細は本誌vol.23参照)がInDesignに取り込まれた。これまでAdobe Labsで公開されていたベータ版では、Digital Content BundlerやInteractive Overlay CreatorといったAirのミニアプリを、InDesignと共に使用してiPadなどのデジタルデバイス用にアプリケーションを作成していたが、CS5.5ではInDesignのみで電子書籍が作成可能となった。これにより、これまで手間の掛かっていた作業が簡単になったと共に、複雑な作業やルールによって起こっていたエラーが大幅に軽減されることになる。
そしてもう1つがEPUBだ。EPUB 3.0にへの対応がなされ、縦組みやルビ、圏点、縦中横といった機能がサポートされた。実際には5月末のEPUB 3.0策定終了後にマイナーアップデートがあると思うが、やっと本格的にEPUB作成に取り組む方が増えるのではないかと思われる。他にも、EPUB作成のための様々な機能が搭載されており、書き出し精度も大幅に向上している。そのいつくかを紹介しておこう。
●EPUB関連の新機能
まず最初に、「アーティクル」パネルが新しく搭載された。これはEPUBに書き出す際のオブジェクトの順番をコントロールすることが出来るパネルだ。これまでは、基本的に座標値を基にオブジェクトの書き出しがなされていたが、「アーティクル」パネルにオブジェクトをドラッグして登録し、その書き出す順番や書き出す/書き出さないといった指定が可能となった。わざわざEPUB用にドキュメントを作り直さなくても済む。
次に、アンカー付きオブジェクトの機能も強化された。画像などのオブジェクトを目的のテキスト中に挿入するためには、インライングラフィックにする必要があり、印刷用ドキュメントからの修正作業が発生していた。CS5.5では、画像やオブジェクト(グループ化されたものもOK)をテキスト中にドラッグするだけで、見た目を変えずにインライン化することが出来る。この機能を使用することでも、EPUBに書き出すオブジェクトの順番をコントロール出来る。もちろん、印刷用ドキュメント作成時にも役立つ便利な機能だ。
そしてスタイルをマップしてタグを書き出す機能も追加された。これは段落スタイルや文字スタイルといった機能にタグを指定する機能。CS5まではスタイル名に日本語を使用していると、EPUB書き出し時に色々と問題が起きるため、名前を英数字に変更する必要があったが、CS5.5では日本語のままでOKだ。「すべての書き出しタグを編集」ダイアログで各スタイルに対してタグやクラスの指定が可能となっている。
他にも、1ページ目をカバー画像として書き出したり、画像の書き出し解像度のコントロール、ビデオタグのサポートなど、大幅にEPUB作成の機能は向上している。
●InDesignは電子書籍のキーになる
今回のInDesignのバージョンアップに関して言えば、まさに電子書籍に関する機能追加だと言える。Adobe Digital Publishing SuiteやEPUBなど、今後AdobeがInDesignを電子書籍のキーとなるアプリケーションとして考えているのがよく分かる。InDesignに電子書籍の機能はいらないといった意見もよく聞かれるが、今後、嫌でも電子書籍に取り組んでいく必要に迫られるだろう。出来ることならば今のうちからテストを行い、スキルを蓄えておくのが、今後生き残っていくためにも必要ではないかと考えさせられる。
*InDesign CS5.5 Beta版を使用しての内容。発売時には、内容が変更になっている可能性があります。
(2011年6月号 プリバリ印より)