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IGAS2011が2011年9月16日(金)から9月21日(火)までの6日間、東京有明のビッグサイトで開催された。世界4大印刷展示会に数えられ、アジア最大と銘打ったIGASもお隣のPrint Chinaの勢いと比べると少々劣勢気味だが、世界の印刷技術をリードする日本最大の印刷展示会であることには変わりがない。
しかし主催者発表の入場者数を見てみると、IGAS2011は73,554人(6日間)というのはやはりさびしいといわざるを得ない。参考にIGAS2007は130,164人(7日間)だからカウント方式の違いなどはあるだろうが、時代が変わったことも冷静に受け止めなくてはなるまい。
図1:IGAS2011会場
図2:環境国際フォーラムでのNPO法人TwoSides代表 Martyn Eustace氏の講演
IGAS2011では「デジタル印刷へ」の流れが更に大きくなったといえるが、小森のオフセットオンデマンドの迫力も大したもので、実利的なオフセット印刷と将来性のデジタル印刷が競いながら日本独自のデジタル印刷化の進展をしていくのだろう。
しかし経費削減のためか、IGAS会場で実機が展示されていた印刷機のほとんどがデジタル印刷機であったことがデジタル印刷シフトを強調している。特に今回は、富士フイルム、大日本スクリーン製造、ミヤコシ、コダック、キヤノンなどのブースで展示されていたグラフィックアーツ市場向けインクジェット機の存在感が大きく感じられた。
図3:富士フイルムのJet Press
図4:富士ゼロックスのFXインクジェット
図5:ミヤコシのインクジェットデジタル印刷機
中でも輪転式インクジェット機による書籍や冊子を印刷するデモは印象的であった。例えば、大日本スクリーン製造ブースでは、モノクロ輪転式インクジェット機であるTruePress Jet520EXを使って、学習教材や青空文庫のデータを使った夏目漱石「坊っちゃん」や太宰治「斜陽」の文庫版など複数のジョブを同じロール紙に折り面付けしたものを印刷するというデモが行われた。
その後、そのロール紙をシートカットしたあと製本、三方断裁してサンプルを配布するというデモも、ホリゾンブースで行われていた。コダックブースで行われたProsper1000のプレゼンテーションでは、A5 x 112ページのサンプル冊子を4,000冊生産する際の所要時間は59分、コストは8.85円、オペレータ1名であったことが紹介されていた。こうした生産性の高さ・生産コストの低さは、デジタル印刷が既に実用的であることを示している。
IGAS2011において、「技術的な目新しさ」という点で少々物足りないと感じた来場者も少なくないかもしれない。日本あるいはアジア初公開という輪転式インクジェット印刷機にしても「インクジェットdrupa」と呼ばれたdrupa2008で発表されたものが中心であった。また、トナー式デジタル印刷機についても、新製品は展示されていたが、既存機種の改良版といえる。
しかし、個人的には興味深いものも少なくなかった。それは「印刷ビジネスの可能性」という点に大きくフォーカスしたIGASといえるからである。CTP時代になってRIPをワークフローと呼んでいたが、印刷物が唯一絶対のメディアからメディアの一つになったことでマルチパーパスを意識したフローが提案されている。
具体的にはこれからだろうが、電子書籍やアナログ印刷とデジタル印刷をかなり意識したフローになっている。現在役立つ機能を具体的に挙げれば、アナログ印刷ではギャンギング、つまり付け合せ印刷してコストを落とすというものだ。
欧州では大判印刷機の普及と共にギャンギングが不可欠のものとなっており、このノウハウを意識したアプリが大日本スクリーン、AGFA、富士フイルム、ハイデルベルグ(参考出品)等で発表されている。程度の差はあれ断裁機とのリンクも考えられているのはいうまでもない。
また、デジタル印刷・アナログ印刷双方にメリットのあるWeb to Print機能も発表されており、今まで通りの御用聞き営業方式では採算が取れないことをメーカーがこぞってプレゼンしているのは皮肉なことであった。考えてみれば印刷通販では前から行われていたことであり、冷静に学ぶべきことは学ぶべきなのだろう。
図6:キヤノンブースのOce大型プリンタ
図7:コダックのProsper 1000
図8:ハイデルベルグのギャンギング機能
図9:大日本スクリーン製造のEQUIOS
販促物に関しては、バージョニング、パーソナライズといったデジタル印刷の強みを活かすことで、顧客の販促効果・販促効率向上を実現する提案、しかもすぐに印刷会社が取り組むことができるような実践的な提案が数多くみられた。JAGATでは2年前に1,000部カタログというバージョニングパンフをデジタルサイネージ込みで提案したことがあったが、まさしく時代は1,000部カタログ(1,000部はネーミング的にすっきりするから使っていたが、実際には500部だろう)時代になりつつあると感じた次第である。
今回のIGASでは、印刷会社が「最新技術による差別化」から「アイデアを活かした差別化」への移行が必要不可欠であることが示された。これは、単にデジタル印刷機を導入するということではなく、アイデアを活かすためにデジタル印刷を活用して競争力、オフセット印刷も含めた自社の印刷サービス全体の競争力を強化することが、印刷会社の売上および利益の拡大に必要不可欠であることを示している。
IGAS2011が、印刷会社にとって業態変革の加速、そして収益力向上に貢献することを期待する。
(文責:郡司秀明)