JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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印刷工程自動化へのベストプラクティス

掲載日: 2011年09月30日

米国の印刷業界団体であるPIAが発行している冊子の概要を紹介する。

本冊子の著者のJames E.Harvey氏はCIP4 の執行役員である。同氏がASN という組織と共に活動するなかで得られた知識やアドバイスがまとめられている。
販売価格は20ドルでこちら から購入可能である。

ASN (The Automated Solutions Network)という米国を中心に活動している組織は、印刷会社がワークフローの自動化を実現するための情報提供やユーザー間での情報交換の場を提供しており2008年から活動している。以前はJDFユーザーフォーラムという名前だった。メンバーの印刷会社は規模の大小はさまざまであるし、印刷方式も輪転、枚葉、デジタルとさまざまである。年に3回北米地域でミーティングを行っている。メンバーの印刷会社がホストとなり、工場見学を含む2日間のプログラムが組まれるというのが一般的なスタイルである。また、アイディアの共有や質疑応答の場としてEmailフォーラムを主催している(詳細はwww.printing.org/automationを参照のこと)。
「印刷工程自動化へのベストプラクティス」というドキュメントは、JDFを活用した工程自動化に取り組もうとする印刷会社に対して、ASNの活動の中で得られた教訓、ノウハウを踏まえたアドバイス集となっている。日本でも通用する部分も多く以下に抜粋を示す。

ASNメンバーによるとJDFによる工程自動化のメリットは“坂道を転がる雪玉”に例えることができるという。二つの装置を統合したところで多くのメリットは望めない。しかし、自動化された工程が増えるに連れて、自動化の拡張はより容易になり、そこから得られる利益は指数関数的に増加する。工程の自動化が進めば進むほど、生産実績データは自動的に集められ請求書作成の時間が短縮される。さらに請求ミスや顧客からの請求金額へのクレームを最小化できる。あるいはクレームがあったときに、金額の根拠を提示することができる(※筆者注:事前見積金額=請求金額という日本の印刷業界の商慣習とは異なる)。
印刷会社によっては“究極のCSR”モデルに移行しているところもある。市場に出ているJDF対応ツール、例えば印刷MIS、日程計画ツールを駆使することにより1人の人間が、見積り、製造設計、生産計画、顧客レポート作成、請求書発行、そして得意先からの変更指示対応まで行うことが可能となっている。印刷業であろうと自動車部品製造業であろうと自動化された環境下では、“究極のCSR”担当者は高いレベルのトレーニングを受け、以前は複数の人間に割り当てられていた仕事を1人でこなし、進行中の仕事の状況により気を配り、高い報酬を得ている。


変化への対応
JDFに対応した印刷工程の自動化は、それ自身が商品として買えるわけではない。自動化によってビジネスのやり方が変わることもある。導入するには計画を立てマネジメントしなければならない。そして、“変化”に対しての対応が求められる。
多くのケースでは最大のチャレンジはオーナーと従業員双方の意識を変えることである。工程の自動化はテクノロジーを追求するためにあるのではなく、会社の収益を改善するためにある。そのことを経営陣が明確に意識し、サポートする必要がある。
また、変化に対して抵抗的になるのは人間の自然な心情である。従業員は自動化を雇用の脅威と感じるかもしれない。実際には自動化のゴールは余分な業務時間を削減するためであるにもかかわらず。もし、本当に自動化のゴールが従業員の削減にあるならば、その目的を隠さずに示すべきである。そして、職場に残れる従業員の選定基準を明確にすべきである。もしゴールがある工程の生産性改善のための労働力削減であって、従業員の削減ではない場合、そのゴールと、従業員には新しい機会が存在すること(そこで求められる新たなスキル)を明確にすべきである。
従業員の信任を得ることは非常に重要であり、その手間を惜しんではならない。信任を得るために有効なのは従業員を意思決定プロセスに巻き込むことである。従業員が直面する課題や要望、あるいは製造工程を改善するアイディアなどを聞くためにすべての従業員に対して開かれた窓口を作るとよい。工程の自動化を実現することは、最終的には従業員の生産性を高め、無駄やエラーや事故をなくすことになる。従業員にとってどんな利益が生まれるかを明らかにし、そして”変化”の裏には経営陣の意思があることを理解してもらう必要がある。

自動化への段階的アプローチ
印刷工程の自動化を全く何もないところから始めるケースは少ないだろう。多くの印刷会社は日々の生産活動を続けながら、既存設備と予算上の制限との折り合いをつけながら進めざるを得ない。そのため印刷工程の自動化はいくつもの段階を経ながら進めることになる。限定された範囲からJDF対応することが一般的であり、特に更新時期を迎えた設備の入れ替えやボトルネックの解消あるいは非効率で課題を抱えた設備の更新がきっかけとなるケースが多い。そこを起点にして自動化の範囲を広げていく。

ワークフロー分析
自動化に取り組むにあたり、最初にすべきことは現状のワークフローを図示することである。そして現状分析をして、どの工程を自動化すべきか、どの順番で取り組むかを意思決定する。
現状分析の視点は、
・工程統合、もしくは工程の単純化ができる部分はないか
・付加価値が発生しない作業や工程の除去ないし最小化ができないか
  (よくある例では作業の段取りのためのミーティング)
・在庫の除去ないし最小化させるための方法を探る。工程間の中間在庫のようなものを含む。
  (例えば、製本工程の不確実さに備えた予備紙の削減など)
・製品仕様やジョブに関する細かな情報の再入力の除去
  (あるシステムに一度入力したら、そのデータは他のシステムに伝達されなければならない。
・情報収集に手間ひまをかけている作業の除去
  (顧客レポートや請求情報の収集、管理資料は生産工程に沿って自動収集されるべきである)

さらに“歩き回るマネジメント”も推奨する。手法としては単純で、管理者が社内の各部署を歩き回って、従業員が何をしているのかを観察する。非効率な作業を探し出しては、現場の責任者や作業者と相談する。「その作業のやり方を変えるとしたら、どうしたらよいだろうか?、どうしたら改善できるだろうか?」という問いを投げかける。

その他、自動化されたワークフローとWebToPrintシステムとの親和性の高さ(理論的には得意先が自らAdobe AcrobatやQuark XPressによりJDFのジョブチケットを発行し、デジタル印刷機を直接駆動することも可能である)や、それによる顧客をも巻き込んだ洗練されたワークフローの提示など示唆に富んだ内容となっている。

(花房 賢)

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