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戦略とイノベーションによる競争が企業を強くする。経営者の使命は「結果を出すこと」に尽きるが、「組織として結果を出すスキル」を習得することは可能である。 【経営シンポジウム・特集2】
「トレードオフ」の選択と活動間の「フィット」こそが戦略になる
結局のところ、経営とは「選択と集中」に尽きるのではないか。選択とは「何をやらないか」を決めることでもあるが、リスクの分散を考えると、できることは全部やりたくなってしまう。しかし、その選択をできなくては、「真の経営者」とは言えないだろう。
競争戦略論で有名なハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授は、戦略的ポジショニングの確立には「トレードオフ」が必須で、企業としての活動間に「フィット」を生み出すことが戦略であるという。
「トレードオフ」の選択は、一方を増やすには、他方を減らさなければならないことから、リスクを伴うために競合他社に模倣されにくい。トレードオフの戦略を幾つも実行すると、戦略の一貫性や相乗効果などの「フィット」が重要になる。このような「強固に絡み合った一連の活動」こそが、本当の競争優位性となるとしている。
ポーター教授と長年の関係をもつ一橋大学は、「競争戦略の理論と実践」を日本に広めるために2001年に「ポーター賞」を創設した。賞の目的は日本企業の競争力を向上させることにある。
「日本企業は70年代と80年代における全社的品質管理(TQC)や継続的改善(カイゼン)運動を始めとして、世界における業務の効率化競争において、長年にわたりコストと品質面における優位を享受してきました。しかし、近年、この競争モデルには限界があることが、より一層明らかになりつつあります。日本企業は、品質による競争に留まるのでなく、戦略とイノベーションによる競争に移行するべきです。日本が競争力を取り戻すためには、日本企業は真の収益性をもたらすような独自性のある戦略を作り上げるべきなのです。」
戦略とイノベーションにのみ注目している点が同賞の特徴で、2010年度(第10回)の受賞企業ぐるなびの場合、「ロングテールの飲食店市場を、ICTと人間系の2層のネットワークで活性化する」点が高く評価されている。
経営者に必要なスキルは習得可能
ポーター賞の運営を行う一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)は、2000年4月に開校された日本初の専門大学院で、国際経営戦略コースでは実務経験者に対して英語でMBA教育を行っている。
ICSの菅野寛教授は、ボストン コンサルティング グループ(BCG)で17年間、製造業を中心に様々なコンサルティングに従事し、多くの優れた経営者と仕事をともにした経験から、「経営者に必要なスキルは習得可能であり、それにはコツがある」ことに気付いたという。
『BCG流経営者はこう育てる』(日経ビジネス人文庫)は、菅野教授がBCG在籍時に執筆した『経営者になる経営者を育てる』を文庫化したもので、稲盛和夫や鈴木敏文、柳井正など著名経営者との議論をもとに、「優れた経営者に必須のスキルセット」を提唱している。
優秀な経営者は共通して次の5つのスキルを有している。
(1)強烈な意志
(2)リスクの回避も加えた勇気
(3)インサイト(論理を越えた発想力)
(4)考える・実行するしつこさ
(5)ソフトな統率力
5つは掛け算の関係にあって、「全部で満点を取る必要はないが、どのスキルも一定レベルには達していないといけない。なぜならば、経営とは、個別スキルを組み合わせて使いこなして初めて全体が有機的に機能する“総合芸術”だからである」という。
ちなみに本書における「経営者」とは社長やCEOだけを意味するのではなく、「事業の長として事業全体に責任と権限を持ち、事業の結果を出すことに責任を負っているビジネスパーソン」を指し、スキルセットの習得法を著者の体験を交えて解説している。
本書ではドラッカーが随所で引用されている。ドラッカーによれば、「成果をあげることは一つの習慣である。習慣的な能力の結集である」。
■関連イベント
「経営シンポジウム2011 不易流行の経営~事業承継と新創業を考える」
2011年11月22日(火)千代田区立内幸町ホール
一橋大学大学院の菅野寛教授による
基調講演「経営者になる 経営者を育てる」では、
優秀な経営者に必要なスキルを明らかにし、その育成法を考えます