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小ロットがもたらす新価値観

掲載日: 2011年11月04日

デジタル時代になると変化のスピードが桁違いになるとは言われていたが、本当にその通りで、昨年の覇者が今年は敗者なんていうことが当たり前になっている。印刷業界の新価値観もめまぐるしいスピードで変わっているが、その主軸は小ロットで間違いない。

日本のデジタルコンテンツ産業の勝ち組代表と言われていた任天堂、それもNINTENDO DSの売れ行きが芳しくないらしい。名だたる強敵をなぎ倒してきたNINTENDO DSだけに、その理由が色々取りざたされているが、一言でいえばスマートフォンにやられたということだろう。

私はiPhoneユーザーなのだが、NTTドコモのガラケーもiモードのいくつかの機能のために保有している。そろそろドコモもスマートフォンに変えようと思って、Sony EricssonのXperiaを検討していたのだが、新機種はまるでPSPという感じのゲーム機そのもので、私が一番重要だと思っているテザリング機能がないのである。ドコモに一番期待しているのが「電波があること」なので、正直がっかりだった。

どういうことかというとiPadのWiFiタイプにドコモの電波でインターネットにつなげるのが現在の通信環境を考えると一番良い方法だ。テザリングとは携帯電話がWiFi基地局になって周囲のパソコンやiPadがインターネットにつながるという機能だが、電波のある(若者用語で申し訳ないが、アンテナがしっかり立つ=電波がある)ドコモにテザリング機能があるとiPadにとっては最強の組み合わせになり、本当に便利なのである。

勝ち組代表のNINTENDO DSがスマートフォンに苦しめられ、SONYはゲームビジネスをスマホに移し、スマホをPSPに仕立てようとしている。こんなこと、数年前にだれが想像できただろうか?

パナソニックだって今後の展開には目を離せない。しかし大金を投資して準備した日本の生産拠点を整理してインドに移すというのは大英断である。当然今後の世界経済を考えればインドに生産拠点を置くことは理にかなっているし、今後の伸びを計算すればインドは中国以上の重要拠点であることに異論はないのだが、これが出来るだけでもパナソニックは立派な会社なのだろう。

このように日本の産業界が苦悩している。かつて欧米の企業が、日本企業に押されて出してきた対抗策に活路のアイディアを求めたいところだが、状況は全く異なり参考にはなりそうもない。実に困ったものである。

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日本の基幹産業がこれだけ苦しんでいるのだから、印刷業だって新しい価値観が求められるのは致し方ないことだ。そして印刷業で新しい価値観と言えばやっぱり小ロットだろう。

こんな話をすると「多品種小ロット」とか「One to one」「パーソナライズ」という単語が踊ってしまうが、現実の仕事を考えると「小ロットごとの発注と印刷」「小ロット発注に伴うバージョニング印刷」が現実的に重要なのだ。今まで1万部単位でしか考えられなかった印刷発注単位が、1000部(500部?)ずつになったり、その1000部が微妙に異なってくる(バージョニング)という受注形式が増えてくるのは間違いがない。
そんな状況の中で値上げだけしていては印刷のデマンド(需要)自体がなくなってしまうので、理想的には値上げせずに、致し方ない場合でも値上げ幅を最小にしながら利益も確保するという仕組みが求められてくる。

細かい仕事になるので、当然営業コストは上がることになるが、それをePowerに求めて何とか打開しようというのが、page2012のテーマである。当然ワークフローを真剣に考えているプリプレスベンダー(この言い方は少々古臭くなってしまったが)が販売しているRIPにこの辺の考え方を反映させて製品開発している。要するにインターネットの力を借りて営業コストを極小に抑えようというものだ。

ワークフローRIPとはCTP登場と共に生まれた言葉で、CTPを上手く使用するには、単なるRIP能力よりもワークフローとして完成度が高くなければ意味がないという考え方だが、私はコレには余り馴染めず、「たかがRIP、早くて安くて安全なのが良いんじゃない」と思っていた。

しかし時代は変わり、インターネットとの親和性を高くしてWeb to Print等の機能がワークフローRIPにダイレクトに装備されてくると、まさしく「されどRIP」ということでRIPがビジネスの中核となろうとしている。

この考え方に先鞭を付けたのはやはり欧米だろうが、今や日本のメーカーも負けず劣らず校正機能やその他諸々各社知恵を絞って、ビジネスを成功させる機能に目が向いているのは大変結構なことだと思う。
つまり「早い安い安全」から価値観が移ろうとしているのだ。

一言でいえば「印刷発注者満足」ということなのだが、実利が得られればそれが一番という価値観を発注者が持つようになったからこそ、変わってきたものでもある。
早い話、何かというと頭を下げるために足繁く通う営業マンより、ミスの少ない営業マンの方が良いし、例えミスがあっても納期までにやり直せるスピードがあるというのは心強いものだ。そんな良いことずくめのワークフローRIPだが、冷静に考えなくてはいけないことも多い。

列記すればこうなる。

  1. ロットの大きいものはアナログ印刷機で印刷し、少ないものはデジタル印刷にかける。これを直前で選択できるというのが、ワークフローRIPの売りにもなっているが、本当にコレは良いことなのか?考えてみるべきである。正直アナログ印刷ビジネスとデジタル印刷ビジネスには深くて大きな溝があるように思える。会社を分けてしまうのが一番のような気がするがこの辺はいかがなものなのだろう。
  2. ギャンギング機能を活用した小ロットビジネスは現実解だと思うのだが、これをアナログ印刷vs.デジタル印刷と捉えていいものなのか?ビジネス的にはどういうとらえ方をすべきなのか?考えてみるべきである。
  3. インターネットを使って、営業コスト等を削減するのはもっともなことなのだが、それでは印刷業全てが印刷通販になってしまうのか?「得意先との関係性を深くする」「極端な話し、一つの部署をアウトソーシングする」的な展開はどうなのか?
  4. 電子書籍も視野に入れた場合のワークフローはどうなのか?XMLデータベースが印刷会社でも可能なのかどうか?印刷会社に最適なワークフロートは??

ということになるが、このようなことをpage2012の前哨戦として2011年11月10日のテキスト&グラフィックス研究会で取り上げ、各メーカー代表の方と研究会メンバーで考えてみたい。単なる機能比べではない意味のある研究会ミーティングにしたいと思っている。興味のある方は是非参加いただきたい。

(文責:郡司秀明)

関連セミナー

「小ロットを前提にした印刷ワークフロー」
2011年11月10日 13:30-17:30

構成と内容(講師や時間割はやむを得ず一部変更する場合があります)
  13:30-13:40 オリエンテーション JAGAT研究調査部長郡司秀明
  13:40-14:15 富士フイルムグラフィックシステムズ(株)
  14:15-14:50 (株)メディアテクノロジージャパン事業企画室副部長佐々浦映展 氏
  15:00-15:35 コダック(株) ソリューション部 三浦知津子 氏
  15:35-16:10 日本アグフア・ゲバルト(株)マーケティング本部本部長 国井忠男 氏
  16:20-16:55 ハイデルベルグ・ジャパン(株)マネージャー武口豊 氏
  16:55-17:30  パネルディスカッション 各社代表とJAGAT郡司

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