本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
変えるべきものを変え、変えてはいけないものを次代に引き継ぐこと。ぶれない心で、変化を受け入れること。東京・大阪の老舗印刷会社の2人の経営者は、「不易流行の経営」を実践している。【経営シンポジウム・特集4】
座右の銘は「不易流行」
大阪の不二印刷は、1933年創業の老舗印刷会社だが、2008年に社長に就任した井戸剛氏は、紙の上にインキを乗せていくだけの仕事は今後価格競争になっていくと予想し、印刷業からサービス業への転換を図った。そして、「マーケティング・サービス・プロバイダー」として、従来の印刷業務にとらわれない付加価値の創造に力を入れている。
先代社長である井戸幹雄会長の座右の銘は「不易流行」である。
「流行、つまり新しいものに取り組む姿勢と伝統を守ることは、どちらが優先するものでもない。新しいことに取り組むことも大事であり、同様に伝統を守ることも大事です。そういう意味で、不易流行という言葉が私の座右の銘になっています」と語る。
市場環境が大きく変化している中で、顧客の変化に応じて、あるいは顧客の変化に先駆けて、積極的に自社を変えていく必要がある。その一方で、次代に伝えるべき伝統は守っていかなければならない。不易流行とは「継続性と変革性」であり、一見対立するように思える2つの概念を両立させることによって、企業は継続することができるのだろう。
不二印刷は、創業以来、顧客のニーズの変化に常に対応し、また時代を先取りしながら新たな技術を積極的に導入してきた。デジタル印刷へもいち早く進出し、様々なサービスを展開している。その一方で、自社にとって一番大事なこと、守らなければならないこととして、時代や状況が変わっても変わらない「本質=不二DNA」を明確に掲げている。
不二印刷の基本的な考え方は「共生=ともに生きる」、お互いに助け合って新しい道を切り開いていく、この基本的な理念は現在の経営理念にも受け継がれている。
会社という道具をどう手入れするか
東京の金羊社も創業85年の老舗印刷会社だが、創業時と現在を比較すると、所在地も設備も従業員も技術もお客様も違う。変わっていないのは金羊社という社名だけでが、「変わり続けたからこそ今がある」と浅野健社長は語る。
「会社は人々を豊かにするための道具だから、何かの目的のために使って初めて生きるものだ」という。技術、資金、建物、設備などの全ては、人が使って初めて価値を創造し、顧客や社会の役に立つ。そしてそのリターンが、そこで働く人たちの人生を豊かにする。
それでは会社という道具をどう手入れするのか。手入れしなければ道具は使い物にならなくなる。そのためには何をするか。それが「変えること」である。法律で禁止されていること以外は、何でもいい。オフィスのレイアウトでも、会社の名前でもいい。何かを変えていくこと、それが企業という、そこで仕事をする人たちの道具をメンテナンスする、手入れすることだという。だから金羊社は85年もったのだと。
何のために印刷はあるのか、何のために企業はあるのか、何のためにチャレンジするのか。大切なことは「顧客の役にさらに立つこと」、そのために一人残らず全員で考えて、相談して、実行して、検証する。同時に常に新しいことにチャレンジする。それが金羊社の新たな伝統となる。
■関連イベント
「経営シンポジウム2011 不易流行の経営~事業承継と新創業を考える 」
2011年11月22日(火)千代田区立内幸町ホール
スピーカーとして井戸剛社長と浅野健社長が、印刷経営の課題や新しい事業領域への挑戦について思いのたけを語ります。