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2011年は、印刷会社を経営することの難しさが浮き彫りになった1年だったような気がする。
2011 年を振り返ると、4マス媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の見直しが進み、各メディアの役割とその本質が問い直された年と言えよう。
4マス媒体の見直しについては2000年代の後半ごろからクローズアップされるようになった。これまでの「マス=正義(効果的)」との 認識で語られることが多かったが、果たしてテレビ、ラジオ、新聞、雑誌が、本当にこれまで語られるような効果があるのかを見直そうという動きが出てきた。
印刷業界でも大量部数を是としてきたが、その媒体効果の見直しが俎上に載るようになっていた。それが現実的な状況となって表われたのが、2011年3月11日の東日本大震災以降である。大震災は発注企業側に予算と効果を見直して、ロットの減少が浸透した。ここで一度絞られた部数や需要が震災前に戻るのかどうかは印刷業にとって気になるところではある。
しかし、それはほとんど期待できない。少なくした部数でも効果にあまり違いがなく、発注者は本当に必要な印刷部数を発注するということである。 また、大震災において機動的に活用されて、有効性を発揮したのがWeb メディアであり、Twitter などのソーシャルメディアであったこともメディアの変容を象徴する出来事であったように思う。
これらのような面から見ると、今の時代に印刷会社を経営することの難しさが浮き彫りになった1年だったような気がする。
従来、印刷業の効率のアップについての話題では生産効率的なもの、つまり機械・設備の話が中心であった。しかし、このような部分だけ に注目しても印刷ビジネスの明るい未来が開けてくるわけではない。これからの印刷ビジネスの方向性を考えると、一つに営業効率を上げる、営業人員を削減する、工務人員を削減するような仕組みで生き残っていくことがある。その場合に、page2012のテーマである「ePowerで新領域へ」と共通するものがある。したがって、研究調査部ではそれらに関することを様々な形で取り上げて調査研究を行い、結果のフィードバック、情報の発信をできるように注力していきたい。
取り上げるテーマの一つはデジタル印刷である。ここではデジタル印刷機の機能やスペックなど機械そのものばかりではなくて、システムとして、ビジネスとしてどう立ち上げるのか、どう売り上げ、利益を確保していくのかについて考えていく。
デジタル印刷は大きなテーマになるが、一方で印刷物発注者はデジタル印刷、アナログ印刷にこだわりはない。印刷物発注者は自分たちに利があるなら、どちらでもかまわないので、アナログ印刷がよければそちらを選ぶだけだろう。したがってデジタル印刷だけでなく、オフ セット印刷の可能性としてのオフセットオンデマンドを取り上げる。ここではギャンギングやUV オフセット印刷などで、どのようにオフセ ットオンデマンドを実現していくかについてフォーカスしていく。
電子書籍については、印刷業界では「紙vs電子」という構図になりがちである。しかし、印刷業はこれからのビジネス展開を考慮する と、紙も電子も一緒に取り組まなければならない。その点でも、オフセットオンデマンド、デジタル印刷が関係してくる。また、クロスメデ ィア対応も必要になるので、スマートフォン、タブレットPC、ソーシャルメディアなどにもスポットを当てていく。
もう一つは地域活性を切り口にしたビジネス展開がある。もともと印刷業は地域に根ざしたものがあるので、この辺の取り組みにもフォー カスしていきたい。
【クロスメディア研究会 】
昨年はスマートフォン(Android)、Facebook関連を多く取り上げたが、様々な形でFacebook が注目集めた年だったと言える。ま
た、昨年の前半はAndroid スマートフォンにおサイフケータイ機能などが搭載され、それまでスマートフォンを逡巡していた層のスマートフォンへの買換えが進んだ。Android スマートフォンのユーザーはgoogle と結びつくのでGmail系に取り込まれていく。そういう点からビジネスに影響していくことも考えられる。
若い人や主婦がスマートフォンに買い換えることによって、ライトユーザーが増えていく。この層はPC をあまり使わないでスマートフォ ンで充分という人も多いが、スマートフォンに移行することによって、ソーシャルネットワークにつながる。そういう意味でもFacebookは2011 年のキーワードだったと思う。実際、昨年の傾向としてクロスメディア研究会ではFacebook 関連のセミナー等には参加者も多か った、とりわけスマートフォンに対応したサイト構築への興味も高かったように感じる。
アプリについてみるとiPhone はアップルの審査が必要になるが、Android は勝手にアプリを作れる。そうすると企業内で使用できるアプリも作ることもできるので、企業内利用という可能性が広がるが、それは、これから先のことになるだろう。
2012 年を展望しても、引き続きスマートフォン関連のビジネスは注目されるだろう。Facebook 関連について、どれだけビジネスに つながるかについては、現状では不透明であるし、それに変わる新たなものが登場する可能性もある。
クロスメディア研究会としては、2012年度もFacebookのように一般の人になじみがあるものをキーワードとして紹介していく 必要を感じている。今年もスマートフォン、タブレットPC、ソーシャルメディアへの注目は続くだろう。それに関連してWeb アプリ、EPUB、HTML5 はキーワードになると考えている。例えばgoogle+ がキーワードとして注目すべき位置にあるとすれば、それについて早めにキャッチアップして様々な角度から半歩でも一歩でも先を紹介していきたい。
これまでは事例紹介を中心に行ってきており、それに加えて、もう一歩踏み込んだものをやりたいと考えている。例えば、ワークショッ プ的に研究会メンバーと一緒に具体的なことに取り組んでみるつもりである。
【テキスト&グラフィックス研究会 】
1)電子書籍
印刷会社がなぜ電子書籍に取り組まなければならないかというと、いわゆる出版の電子書籍で取り挙げられる書籍・雑誌の電子化するのとは別に、商業印刷分野おけるカタログやマニュアル類、学習参考書や資格・教育分野においても電子化が進むからである。実際にカタログもマニュアルも、猛烈な勢いで電子化は進んでおり、紙は確実に減少していくのだからそれに対応していくことが必要になる。したがって、印刷会社が電子書籍に取り組まないと、せっかく紙の印刷で握ってきたコンテンツを手放すことになりかねない。紙も、電子にも対応できるということでコンテンツを握り続ける必要がある。それができないと、単なる刷り屋という状況に陥り、新たなビジネス展開することも望めないし、価格競争から抜け出せないだろう。
電子書籍ではEPUB、PDF 等といろいろなスタイルがあるが、印刷会社はどのようなスタイルでも扱えなければならないし、スマートフ ォン、タブレットPC とデバイスについても同様である。テキスト&グラフィック研究会では、これら電子書籍についてはその目的からアプローチする形で取り組んでいきたい。一般に電子書籍は出版の部分でクローズアップされているが、日本の電子出版はカタログやマニュアルから普及していくだろう。その場合はEPUB にこだわる必要もないだろう。その理由として、例えば出版社から見れば電子書籍自体が商品となるが、通販会社から見ればカタログはツールでしかなく、いかに商品を購入してもらえるかということから制作するので、それが達成されることが重要なのである。さらに学習参考書であれば、その目的は学習者の学力を高めることが目標で、電子化することでより目的達成を可能にするのであれば、それは利用されるようになるだろうし、システムとしてe ラーニングと区別する意味はない。
研究会としては「紙だから」「電子だから」ということにこだわるのではなく、必要なものは電子化されていくのだから、それにはきちん と対応できるような情報を提供していきたい。
2)デジタル印刷
デジタル印刷は小ロット対応だけでなく中ロットの領域までを扱っていきたい。また、デジタル印刷では設備保有や仕事における割合など
はなく、デジタル印刷における具体的な仕事についての調査をしたいと考えている。とくに「どのようにビジネスとして成り立たせること
ができるのか」についてフォーカスする。
その関連でMIS やWeb to Print にスポットを当てていく。例えばビジネスにつなげるには自社の仕事のパターンを分析して、自社の全てのジョブタイプをパターンごとに分別する。そして仕事ごとに最適なパターンに合わせて流せば、非常に効率を上げることができるだろう。
このような業務分析をして生産システムを構築していくのもMIS の一つの形と考えている。MIS はこれまでコストの見える化を中心に取 り組んできたが、こらからは業務の見える化についても必要になる。業務の見える化を図ってジョブをパターン化することは、デジタル印刷ビジネスを成り立たせる場合の重要なポイントであり、必須のことと言える。
3)その他
色の分野ではとくに公益的分野として文化財アーカイブ、医療分野など正確な色を表すということについて関わっていく。
ソーシャルメディアについては、クロスメディア研究会とは別の形で印刷業が活用する場合はどう取り組むべきかを提案していきたい。こ
れはクロスメディア展開と印刷のコラボレーションで、例えば既に取り上げた360 度パノラマ写真をどのようにビジネスに結び付けていくかのようなことを取り上げていく。同様に、電子書籍も利用することで印刷会社がいかにビジネスを伸ばしていけるかにフォーカスしていく。
つまり、これまでのコンテンツが紙から電子に移行していく中で、それらを印刷会社が主導的にハンドリングできるような方向に行けるよう に、その手伝いをしてきたい。とくにデジタル印刷、電子書籍については、単なる事例の紹介ではなくて、研究会参加者と一緒になって研究を行っていこうと考えている。
【プリンティングマーケティング研究会 】
プリンティングマーケティング研究会では、現状、オフセット印刷技術のように成熟してきた分野からよりビジネスモデル的なもの、マー
ケティング分野の情報提供が求められていると言えるだろう。加えて、将来の印刷ビジネス、印刷経営に関するニーズに対して、それらの展望や道筋を示唆できるような部分を強めていきたい。それも印刷会社ならではのもの、印刷ビジネスで蓄積したもの、構築してきたネットワークを生かしてできることは何かということにフォーカスしたい。
印刷会社これからのビジネス展開を考えていく上では、基本的に中小・零細も上場企業も根本な部分は変わらない。それは既存事業については合理化、新規事業については成長領域を模索していくことである。その過程でリストラクチャリングも避けては通れない課題になっていると考える。実際に現状を見るとリストラを終えたところから順に回復しつつあるようだ。
そういう意味で印刷業は徐々に回復を目指すのか、大手術を行ってドラスティックに臨むかの転換点にあることは間違いない。 このような現状を踏まえた上で、例年に引き続き印刷会社経営に役立つデータやケーススタディを収集し、評価してフィードバックしてい く。
例えば新規事業の模索という中には、電子書籍やデジタル印刷やネットのビジネスがある。さらにビジネスモデルの中にソーシャルビジネ スなどの新しい領域があって、その中にCSRや地域活性があるという位置づけになると考えている。
今、いろいろなビジネスが儲からなくなりつつある中で、各ステークホルダーで利益をシェアするというスタンスが必要である。そういう 意味で、その一つの手法として地域活性が絡んでくるだろう。印刷会社は地域活性において、他の企業よりもある程度はアドバンテージがあるのではないかと見ている。それは印刷物という地産地消性が強い製品を扱ってきたからである。それが印刷会社ならではのソーシャルビジネスの可能性を秘めたものだと見ている。
(研究調査部 部長 郡司秀明)