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インターネットの最大の功績 ソーシャルメディア本番

掲載日: 2009年02月07日

成功するソーシャルメディアでは自浄作用は利くようになり、リアルワールドを越える世界を作り出すものとなりつつある。PAGE2009報告その3。

ネット上のビジネスが伸びるのは、購入手続きの利便性という面もあるが、次第にリアルワールドとは違うネットならではの世界を作りつつあるからだ。ネットの最初はオルタナティブとかアングラ・オタクのような意味での「ネットならでは」の世界があったが、今はリアルワールドよりも素晴らしい世界も登場している。しかし逆に最近になってかえってネットの古い暗いイメージをわざわざ引合いに出して、ネットは規制すべきものであるというネットに対する逆襲のようなことも目立つようになっている。これはネットの力が無視できないものになった証でもある。そのネットの力の源泉は何か? それはネットを使っている人々そのものである。それが発揮されるネット上の仕掛けが、CGM・UGC・ソーシャルメディアである。

PAGE2009コンファレンス2月5日のC3セッション「ECにおける最新のCRM、成功事例の研究 」では日本最大級の健康関連商品ECサイトケンコーコム リテール事業本部コミュニティーマーケティング室長原田直美氏と、2月6のC4セッション「2009年はどうなる? 音楽も変わる!メディア産業も変わる!」において世界最大のエンターテインメント系ソーシャルメディアマイスペース 株式会社CEO大蘿淳司氏が、CGM・UGC・ソーシャルメディアの現状と可能性について話された。

MySpaceはかつてPAGEでも取り上げたことがあるが、自己宣伝のためのSNSのようなもので、クリエータ・アーチスト(の卵、志す人、好意を抱く人)にとっては必須のメディアとなった。世界31か国2億人の登録者がいて、2年前から日本でも始まり、500万ユーザを獲得してまだ伸びている盛りである。日本でもアーチストが10万規模になって作品を発表して評価してもらいたい人(自分のファンを作りたい人)には必須のプロフになりつつある。MySpaceは文字で書くのではなく、自分の好きなアーチストの音楽や画像をクリックしてとってきて自分のページに貼り付けることで、その人がどんな趣味嗜好かを表現するのが特徴で、気に入った人は勝手に「フレンドになる」とか、自分のページに訪問者が勝手に何かを書き残していくなど、見知らぬ相手と軽い交流ができる。お互いが波長が合えば具体的にコラボが始まることがある。

最近はこういったソーシャルメディアに広告が進出している。契約タレントやキャンペーンに好意をもってもらい、多くの人にリンクしてもらえれば言いたいことが伝わるという考えである。いわゆるマスメディア的な考えではリーチ数が多いほうが価値が高いと見るが、ソーシャルでは量より質で熱い支持者を重んじている。アメリカの広告主はマスメディア広告を減らしてソーシャルに金をかける傾向が出てきた。しかしこの熱い支持者の獲得は金の問題ではなく、まさに人そのものである。日本でもたむらぱんは高校・大学時代にバンド活動をし、インディーズでソロ活動を始めても観客はいつも10人ほどだったが、4カ月でMySpaceにフレンド登録を1万以上してもらって、ネットで聞いてもらってCDも売れ、ライブも100~300人集まるようになった。マスメディアの世話にならずにデビューした例は次第に多くなりつつある。

ケンコーコムはオンラインのドラッグストアのようなものだが、どこのドラッグストアでも売っているものは(近所で買えるので)あまり売れず、10万商品の品揃えで1位商品の売り上げ寄与は0.34%、むしろ2万位以降でも15%を占めるなど、ロングテールの売り上げ分布になっている。だから商品登場期のレアモノ・品薄のものを求める人が買いにくるのと、店頭向けのキャンペーンやブームが去って棚落ちで手に入りにくくなったものがよく買われるように、マスメディアでの販促の逆を行っている。多品種を扱いながら迅速なサービスをするために自社で仕入れ物流をもっているとか、返品はほぼ無条件にOKとか、顧客対応には非常に心配りをしたビジネスをしている。

ただし健康食品は効果効能表記の規制が非常に厳しく商品の説明がし難いので、メーカー側からの情報発信を充実させるメディア化と、消費者の声を発信するCGM「ケンブロ」「ケンコミ」を始めた。しかし薬事法その他の規制があっても一般の人はどの程度の表現はOKで、どこからダメかは知らないだろうから、勝手に書き込ませて大丈夫なものかと懸念される。ケンコーコムではすべての書き込みを人海戦術でチェックしていて、実際にはそれぞれ月に何件もひっかるワケではない程度であるという。それはケンコーコムがもつ文化のようなものが浸透していて、利用者がよい方向に進むように行動しているからである。こういった要素がないと発展していくものにならないという。

この2例のように成功するソーシャルメディアでは自浄作用は利くようになってきたことが、リアルワールドを越える世界を作り出すことにつながっている。しかし日本では薬の通販は揺れている。6月から大衆薬の通販を禁じる省令を厚生労働省が出した。通販業者が規制反対を表明しているのに対しては全国薬害被害者団体連絡協議会や消費者団体から規制強化の要望も出ている。これは代理戦争のようなもので、その奥には既存業界の圧力が見え隠れしている。薬害を起こさないためには対面販売が必須であるという意見がある一方で、専門家のいないコンビニでも薬が買えるようになるのは筋が通らない。実は筋は関係なくて、コンビニ販売のような規制緩和を既得権益のある業者に認めさせる取引としてネットをスケープゴードにして規制しているのではないかと勘繰らせられる。

なにしろ利用者の頭越しの奇妙な政策の話ばかりでてくるのは不自然である。消費者団体もネットの利用者も同じ土俵で考え、また各業界の人も本質的な問題は何かを考えるためのソーシャルメディアはできないものかと思ってしまう。裏取引で政策が決まるものだとしたらインターネットは政治の敵であり続けるであろう。しかしオープンな意見交換とコンセンサスを作る場はインターネットしかないのではないか。それはソーシャルメディアの成功例から見て取れることである。ソーシャルメディアの推進者達は、良いものは必ず広がるという信念をもって取り組んできた。それは社会を変える力になりつつある。

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