本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
[若手印刷人 リレーエッセイ] お客さまの「お困りごと」なら、喜んで拝聴し、一緒に解決方法を探り、可能な限りお手伝いをする。わたしはそこから、必ず生き残る道は見つかると思っている。
今回、僭越ながらこの「若手印刷人リレーエッセイへの寄稿の打診をいただき、こころよく承諾させていただいたものの、一向に筆が進まない。締め切りも、もう間近。JAGATさんからの原稿請求メールもいただいてしまった始末(すいません)。
書けない理由は、寄稿のテーマとしてJAGATさんからいただいた選択肢のうち、わたしが自ら選んだものが大変難問であるからだ。そう「印刷産業の今後の展望」というテーマが。わたしは困っている。
苦し紛れに、パソコンで印刷業の今後を「検索」してはみたが、思うような明るい未来は見つからない。それどころか、JAGATさんのホームページ内にあった「印刷業の未来は誰も教えてくれない」という厳しいコトバさえ見つけてしまう始末。またまた、頭を抱えこんでしまった。
誰も未来を教えてくれないのなら、自分で考えなければならない。このエッセイも自分の「ことば・想い」で書かなければならない。もちろん、至極当然のことではあるのだが。
長引く日本経済の低迷と迷走に加え、3月の大惨事・・・その影響からか、ここ名古屋地区においても、今年度は多くの印刷会社が倒産・廃業に追い込まれた。その悪い報せを耳にするたびに、いたたまれず、やるせない気持ちを否応にも味わされる。
われわれは今後どうすればよいのだろうか。どうすれば生き残れるのか。何を捨て、何を新たに始めればよいのだろうか・・・。考えるほどに、顔が歪み、眉間にしわが現れる。
とはいえ、つい先ほどまでわたしは上機嫌でもあったのだ。高揚した気分と笑顔。お客様からの急なご依頼で、ハイクオリティな印刷物を短納期で制作し、いま納品を終えたばかりであるからだ。お客様からは、こちらが恐縮するほどの、感謝の意を表していただき、これ以上のない充実感を感じながら帰社したところなのだ。会社経営の傍らの、一介の営業活動の愉しみ。
わたしはよく、入社当時のことを思い出す。18年前のこと。わずかな研修期間ののち、見よう見真似で営業を始めたころのことを。そして、この業界の、お客様への接触頻度の多さに驚いた。訪問回数もさることながら(当時は)ポケベルの頻繁なコールにたまげたものだ。近くの公衆電話から連絡をし、部数変更や、文字校正の追加、新しいお仕事や見積り依頼などをいただいた。
正直、その多忙なやりとりに、辟易とすることもあったが、それに応えるのに比例して、お客様とのパイプは強く確実なものになっていった。先方の感謝の意やこころからの笑顔に、小躍りすることも。
われわれが営む印刷業は、典型的な受注産業であり、制作する商品はオリジナルでオーダーメイド。コミュニケーションの頻度や密度が濃いのは当然。すべての業界の中で、印刷業が一番お客様とコミュニケートしているのではないだろうか。
結果、何が生まれるか・・・。もちろんお客様との信頼関係だ。印刷物というモノを制作する過程、その悦びをお客様と共有することで、その「絆」は強固なものになる。培われるホスピタリティとコミットメントの深さは、どこの業界にも負けないはずだ。
そう。われわれはお客様の一番の「理解者」なのだ。
その恵まれたポジションから、未来への何かしらのヒントは必ず見つかるはずだ。それはもしかしたら、全く印刷とは関係のないニーズかも知れない。もっと労働集約的、サービス業的なものかも知れない。しかし、それがお客さまの「お困りごと」なら、喜んで拝聴し、一緒に解決方法を探り、可能な限りお手伝いをするべきなのだ。
わたしはそこから、必ず生き残る道は見つかると思っている。そして当面、この主張を維持するつもりである。愚直なまでに。
なぜなら、そこには、われわれ印刷業の悦びがあるではないか。
みなさまもご経験があるだろう、くしゃくしゃな笑顔のお客様からの「○○印刷さんじゃなきゃ、ダメだよね!」のひとことをいただく悦びが。