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コンテンツの一元化と自動組版でクロスメディア対応を実現 <page2012カンファレンス報告>「XMLコンテンツと出版の未来」

掲載日: 2012年02月21日

教育や情報誌などの分野では、電子書籍やWebなどのデジタル化が進むとデジタルファーストと言う事態も考えられる。

 

一つのコンテンツから印刷物や電子書籍の制作、Webサイト配信を同時に行うことや、校正済みコンテンツを再利用するには、XML形式でコンテンツを一元化する方法が有効と言われている。教育や辞書、法令・用語集から旅行情報誌などの分野におけるXMLコンテンツ制作と利用技術の現状は?

page2012カンファレンスの「XMLコンテンツと出版の未来」セッションでは、XMLコンテンツ制作とデータベース、印刷物・電子書籍、Web配信を実現するクロスメディア事例を取り上げた。

■通信教育教材のXMLパブリッシング

ベネッセコーポレーション デジタル戦略推進部の桑野和行氏は、同社の教材コンテンツのXML化と利用技術について語った。

2004年頃より、進研ゼミなどを中心にコンテンツのXML化を進め、印刷用PDFやHTMLへの変換、最近ではiOSアプリ生成にも利用している。
元々の動機は、教科書の多様化や教材点数の増加、媒体増に対応せざるを得ないという状況がある。だからと言って、編集者や制作コストを増やすことはできない。したがって、コンテンツを一元化し、自動組版によるマルチユース・リユースを進めるしか方法がない。

XSL-FO技術が標準化され、対応ツールが提供されるようになったので、本業の合間に勉強し、検証をおこなった。
そして、500ページの大学・学部学科の情報誌などのXML化と自動組版を1人で実現した。500ページのXML化と自動組版は、DTPコストだけでなく、将来の編集コストも削減することができる。その成果を元に、徐々に実績を積み重ね、専任の体制も整備することができた。 

2010年に、Web、DB、組版を統合するサーバ環境の開発に着手した。クライアントはコンテンツ制作から組版までをWebとブラウザ環境だけでおこなう。一般の編集者でもタグを意識することなくXMLコンテンツを容易に入力し、校正することができる。

このシステムは2011年より稼働している。ユーザには、タグを見せずXMLを意識させない工夫がなされている。文書構造に違反した場合は、システムが不正箇所を指摘するといった仕掛けがある。
大きなトラブルもなく比較的順調に立ち上がり、ユーザ数、制作ページ数も当初目標の1.5倍となった。結果的に、コンテンツのXML化が大幅に進んでいると言えるだろう。

コンテンツのXML化業務は外部委託を活用する予定であり、パートナー開拓を進めている。また、スタイルシート開発の効率を上げるため、ライブラリ化や変数方式を取り入れるよう開発中である。
今後、編集者など多くのユーザからのフィードバックを反映させ、UIを改善しすることが課題である。
 

■電子辞書コンテンツのXML化と活用

ディジタルアシスト代表取締役の永田健児氏は辞書コンテンツのXML化について語った。
2001年にデジタルコンテンツ専門の編集プロダクションとして、ディジタルアシストを設立した。
辞書コンテンツのXML化とメンテナンスを主業務としており、出版社のデータをXML化して、電子辞書メーカーに納めている。

2002年に辞書専用のXML仕様「LeXML」を策定し、外字の統一記述体系と併せて一般公開した。国内の電子辞書メーカーも、ほとんどがこの仕様を採用している。
LeXMLは、辞書の編集マスタとして利用されることを想定した基本構造と検索キーワードを設定することができる。Webブラウザや電子辞書のディスプレイ表示を想定した組版と文字装飾。ゲラ出力や印刷入稿を想定した基本タグの属性指定とインラインタグ。外字の記述方式の統一などの特徴がある。

LeXMLを採用した辞書として、ジャパンナレッジ、コトバンク、Yahoo!辞書、研究社オンライン・ディクショナリーなどのWeb辞書、カシオ、シャープ、SII、キヤノンなどの電子辞書、最近ではiPhoneやiPad、Android版のアプリケーションがある。

辞書のXML化工程の実際として、最初に調査・企画・設計をおこない、前処理、XMLコンバート、外字対応、キーワード作成、参照ジャンプ対応へと続き、最終的なチェック・調整を終えると、納品する。
また、メンテナンス業務として、データ提供先との調整やデータカスタマイズ、誤字脱字、時事項目の修正、追加入力がある。書籍版の増刷や修正への対応として、更新情報をフィードバックする。その他、改訂作業の支援や派生企画のためのデータ処理、CD-ROM等のデジタルコンテンツの制作、インハウス・データベースの構築などもおこなっている。

■データベース活用と印刷物・電子出版のクロスメディア展開

クロスデザイン代表の黒須信宏氏は、クロスメディア環境でのデータベース活用について語った。
クロスデザインは、デザイン業務の他、データベースの構築やクロスメディア出版の支援業務をおこなっている。

印刷物を最初に制作し、その後データをWebや電子書籍に利用するというワークフローが、 今後も続くかどうかは判らない。最初にWebやスマートデバイス用のデータを作成し、その後場合によっては印刷データとして流用するということも考えられる。

このような事態に対応するには、データベースが主体であり、コンテンツとデザインを分離するクロスメディア型ワークフローを実現するしかない。つまり、印刷物やWebなど特定のメディア向けにコンテンツを作らないことである。
コンテンツは、デザインの要素を排除した形で生成し、各メディア向けのデザインや加工を自動あるいは手動でおこなう。そのためには、印刷物など過去の資産を活用することをすっぱりとあきらめることも必要となる。

LEPUSは、Webブラウザからプレーンテキストを入力し、ブラウザ上で自動レイアウトや微調整をおこない、PDFやHTML、各種アプリへの変換をおこなう仕組みである。カタログや新聞、さまざまな出版物、社内ポータルや社内印刷物の制作、ムービーや音声などによるモバイルやスマートデバイスとの連携もおこない、クロスメディア展開を実現する。

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コンテンツのXML化と言っても、実際には文書構造を標準化した上で定義すること、印刷やWebなど、さまざまなメディア向けに展開するための組版エンジンや変換ツールを準備すること、コンテンツ入力やメンテナンスなどの人材育成やシステム環境が必要なことなど、時間的にも費用的にも大がかりとならざるを得ない。

今回XMLの話を伺った2社は、スタート時の規模は小さく、試行錯誤しながら時間をかけて成果を積み重ね、環境を整備していったとのことである。また、クロスデザインのLEPUSシステムは非XMLだが、コンテンツの一元化を簡易に実現する方法として、利用価値も高いと思われる。

今後、分野によってはデジタルファーストが現実化していくだろう。その際にもっとも重要なことはコンテンツの一元化や多メディア展開である。先行している方々は、その辺りも十分に視野に入れていることが伺えた。

(まとめ: JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)

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