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<pageカンファレンス概要報告> 「地域密着から拓く新ビジネス」

掲載日: 2012年02月24日

2月10日のpage2012カンファレンス「地域密着から拓く新ビジネス」では、地域に密着したビジネスを展開している3氏と、ビジネスの採算性や自社事業への波及効果、印刷会社の役割などについて議論した。

景気低迷による価格競争やサービス競争が続く状況の中で自社の今後を見据えたとき、すぐに商売に結び付かなくても、人や地域と関係性を構築しながら充実したビジネスとなる可能性を秘めた地域密着ビジネスにも取り組む例が増えているようだ。

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いわき印刷企画センターの鈴木一成氏は、いわきマーチング委員会の活動と「がんばっぺ!!いわき!日本!」の取り組みについて語った。福島県いわき市で事業を営む同社は、首都圏への人口流出や地元の景気低迷、現在では原発による風評被害という地域の課題を抱えていた。

業界内でも価格やサービス競争が過熱し、打開策を模索していた鈴木氏は、2010年の利根川氏との出会いをきっかけに「いわきマーチング委員会」を発足し、淡い水彩画で描かれたイラスト「いわきひとまち百景」による街興しに取り組み始めた。

道の駅や映画館、病院の渡り廊下などでイラスト展示会を開催した際、訪れた人々が住む街の魅力を再発見し、絵の前で語り合う姿を見て、自分の街を好きになることが地域の活性化を促す第一歩だと感じたという。現在は、絵ハガキや名刺、一筆箋などの商品を開発しやチラシ、パンフレットへの展開している。

3月の大震災発生後は「地域のために何かできないか」と考え、すぐに「がんばっぺ!!いわき!」ロゴが入ったのぼりやミニのぼり、ステッカーを作成し、無料配布を行った。また、長く続けられる支援の方法を考えて缶バッチやのぼりなどを商品化し、収益の一部を支援金とする取り組みを続けている。

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ホウユウの田中幸恵氏は、大阪・堺市の地域情報サイト「つーる・ど・堺」を活用した地域活動と、紙のフリーマーケット「Paperフリマ」について語った。大阪市内の景気低迷と低価格競争に歯止めがかからない中、同業者中心の受注体制に限界を感じ、地元顧客を掘り起こしていく方向性に事業を転換した。

約18年前に、堺市の歌人・与謝野晶子の百首かるた販売サイトとして立ち上げたWebサイトをリニューアルし、堺・南大阪の地域情報を発信する「つーる・ど・堺」をオープンさせた。地域にホウユウの存在を知ってもらいながら、地域の人たちが気軽に情報交換や発信できる「場」として活用しているのだという。

活動を続ける中で、地域住民への情報提供が不足しているために、住む人々が街の魅力を知らないのだとわかった。そのため、地域情報を収集・発信しながら地元コミュニティの繋がりを強化し、オフラインの「場」を作る活動を始めた。その1つが、端紙を活用してグッズを作成し、様々な紙見本と一緒に展示する「Paperフリマ」だった。

この2つの活動を通して、Webだけでなく人が集まれるリアルな「場」を提供しながらホウユウ自身が情報発信基地となっていく必要性を感じたという。今後も地元に密着し、ネットとアナログでの情報発信を組み合わせながら「こと・ひと・もの」を繋げる活動を続けていく。

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文伸の川井信良氏は、35年以上前から続けている自社の地域密着ビジネスについて語った。川井氏も含め、三鷹市や武蔵野市は市外からの移住組が多く、自分の街を知る機会が少ない。井の頭公園や太宰治、玉川上水など三鷹が持つ魅力を知ってもらうことで、住む人が自分の街を誇れるようにしてほしいと考えるようになった。

1970年代に地域ミニコミ新聞などを創刊して地域住民への情報提供を始めた川井氏は、その後も、1995年から「みたか市民ネットワーク」に参加して太宰治など三鷹の財産を伝える市民観光ガイド養成講座を開設し、1999年には紙以外のコミュニケーションツールを模索し、街の情報を伝える「むさしのみたか市民テレビ局」設立に参加した。

2010年には、市内の観光地をエリア別・テーマ別に7つの散策コースに分けて提案する「みたか散策マップ」を、また、会社の50周年記念事業として、2017年5月に開園100周年を迎える井の頭恩賜公園の無料カウントダウン新聞「いのきちさん」を発行するなど、地域住民や観光者に三鷹の魅力を伝る地域密着ビジネスを多く手掛けている。

川井氏は、「地域密着ビジネはすぐには商売に結び付かない、思いがなければ参加しないほうがいい」と語る一方、「人とはすぐに結びつくことができ、ゆっくりだが充実した末永いビジネスになる」という。人や地域と関係を深めながら街の魅力を掘り起こし、課題解決に取り組み続けることで、地域から信用され、長く存続する企業となっていける。

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3氏に共通するのは、地域の文化や魅力を深く理解し、地域住民へ伝えるために同じ気持ちを持つ協力者とともに取り組んでいる点だろう。ある日突然、地域密着ビジネスを始めようとしても難しい。これまでに培ってきた人脈と自社が持つ問題解決のノウハウを生かしながら、人と人、人と地域をつなげる架け橋になることが重要なのだと知ることができるセッションとなった。

      (JAGAT 研究調査部 小林織恵)

 

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