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PAGE2009グラフィックストラックでは、「オンライン校正の導入と効果」をテーマに取り上げた。【グラフィックストラック報告】
オンライン校正として明確な定義があるわけではないが、今回は「ネット上で校正データを共有すること」を中心にして議論をおこなうこととした。また、プリンターやモニターによる色校正(カラープルーフ)については、カラーマネジメントのカテゴリーであるため、ここでは扱わない。
オンライン校正の最大のメリットは、校正紙を印刷して何らかの方法で運ぶ時間と手間がないため、データが完成次第、何度でも校正することができる、ということが挙げられる。
また、仕組みによっては、コメントを電子データとして書き込みすることができるため、校正・修正の履歴も共有することができる。差分表示機能などにより、修正が正しく行われているかを確認することができる。仕組みとしては、いくつかの種類があり、PDFやAcrobatの機能を利用する方法、アセット管理システムを利用して校正データを共有する方法などがある。Web to printの一部として利用する方法がある。
エイビス・テクノロジーズの西村浩之氏は、同社のアセット管理システムActiveAssetsによるオンライン校正の方法と事例について紹介した。
ActiveAssetsは、Webブラウザをインターフェースとして、サーバー上のデータを共有する仕組みで、PDFの校正データを共有する仕組みがある。プロジェクト機能として、ユーザーグループや参加者の権限を設定し、また自動通知機能などもある。
ActiveAssetsを利用したオンライン校正の事例として、ある印刷会社では、以前1ヶ月以上かかっていたハワイの旅行者向けガイドブックの校正を、数日に短縮したとのことである。また、チラシの印刷をおこなっている会社では、売り出し価格など下版直前に多くの修正があり、電話やファックスで何度も確認するなど煩雑な作業を行っていたが、オンライン校正によって劇的に改善することができた。
大手電機メーカーの包装資材の校正業務に採用され、全国各地の工場や研究部門など遠隔地での校正、多数の関係者の校正を一元化することができたと言う。強固なセキュリティ環境を実現していることは、大手電機メーカーのお墨付きである。
ビジュアル・プロセッシング・ジャパンの鹿島功敬氏は、同社のオンライン校正システムDiALOGUEを紹介し、印刷会社がオンライン校正に取り組むための課題について取り上げた。
DiALOGUEは、サーバー上のドキュメントを関係者で共有し、注釈などの校正情報・履歴を共有する仕組みである。差分表示機能があり、校正前と校正後のデータを簡単に比較することができる。印刷会社にはオンライン校正に積極的な会社もあるが、現状では消極的な会社が多いという。顧客との校正ワークフローを敢えて変更したくないという心理的な側面や、売上への影響があるのではないかとのことである。
昭栄印刷の小野和夫氏は、自社でのオンライン校正の状況について発表された。同社は、新潟県の情報誌を中心とした印刷会社だが、新潟や関東だけでなく、全国の情報誌を受注している。以前はデータ入稿と宅急便などを利用していたが、Web to printシステムを導入し、オンライン校正を実現した。工程の短縮や進行管理の明確化はもちろん、顧客満足の向上にもつながっている。インターネットを活用することは地方の印刷会社として切実な問題であり、Web to printやオンライン校正に取り組んでいる。オンライン校正は重要な営業の武器となっている。
丸星の関戸紀之氏は、マニュアル制作業務とオンライン校正について話をされた。同社は、グローバルに事業を展開する企業のマニュアルコンテンツ制作を行っている。校正は、数千ページにおよぶ校正紙をバイク便でやり取りしていた。このやり取りや進捗確認も、顧客と制作会社の双方にとって負担となっていた。アセット管理システムを導入し、サーバー上で校正データを共有する仕組みによってオンライン校正を実現し、業務を劇的に改善することができたと言う。同社は、制作業務を受託するだけでなく、顧客にとってのコンテンツ管理センターとなることを目指している。
一部では、4ー5年前からオンライン校正を導入し、活用している企業がある。オンライン校正によって印刷会社と顧客とのWin-Win関係を構築している。あるいは、積極的に営業ツールとして位置づけ、オンライン校正を活用している印刷会社もある。ある意味で、完成度の高いシステムであると言える。
一方で、大多数の印刷会社では、積極的に従来のワークフローを改善することもなく、オンライン校正に対する関心も高くないと言う。これは、デジタルデバイドの一種とも言えるし、印刷会社の営業姿勢の課題とも言えるだろう。
印刷会社にとって、厳しい経営環境が続いている。このような環境の中で、顧客の期待に応え、満足度を上げることが求められている。オンライン校正を活用できるかどうかは、印刷会社が勝ち残るための重要なキーとなるだろう。