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業務改革を成功させるための4つのポイント

掲載日: 2012年04月27日

ある印刷会社の残業時間削減の成功事例から業務改革の成功ポイントを紹介する。

印刷業界を取り巻く環境が大きく変わりつつあるなかで、「変わらなきゃ」をテーマに部門横断的な業務改革プロジェクトを立ち上げている印刷会社は多い。一方で、毎年掲げるテーマが同じで進歩が見られない。あるいは、最初は熱心に取り組んでいたのにいつのまにか立ち消えになってしまうケースも非常に多い。
どうしたら業務改革プロジェクトを成功させることができるのか、ある印刷会社で業務改革の先頭に立って引っ張ってきた方に伺った秘訣を紹介する。

最初に結論から述べると成功の秘訣は以下の4つである。

1. 全社員が参加するような仕掛けをして、社員全員に当事者意識を持ってもらう。

2. 作成したプランは目につくところに貼りだすなどして意識づけはくどいくらい行う。

システムでの情報共有は「見える」環境を作っただけで安心してしまいがちで、実は誰も見ていなかったりするので要注意

3.経営陣のリーダーシップは必要不可欠

4.目標は具体的な行動にまで落とし込む

文字にしてしまうと当たり前という感じであるが、実行してやりきるには相当なエネルギーが必要となる。具体例として、残業時間削減の成功例を紹介する。
 

施策1:残業時間の公表(「見える化」)
各部署の壁に前月の残業時間実績を個人別に貼り出した。結果が“良い”か”悪い“かは一切問わない。社員ひとりひとりが事実を客観的に把握することで自発的な行動を期待してのものである。

施策2:他部署へ業務依頼するときの締め切り時間の設定
午後3時半を当日処理の受付の締切時間とした。締切時間を過ぎた場合は翌日処理となる。ルールを決めるときには、営業から「それでは仕事にならない」と猛反発を受けた。開始前には不安もあったが、杞憂に終わった。“本気”であることが伝われば、ルールに合わせて仕事を組み立てるようになる。あまりに杓子定規な運用は問題だが、“なし崩し”を許してはいけない。

施策3:業務分析シートの作成(定型/非定型業務にわける)
各自の業務を分析し、定型業務と非定型業務とに分けた。そして、定時内に定型業務を優先して行い、非定型業務は後回しにするようにした。例えば、接客のアポイント時間はなるべく後ろにずらすなど。定型業務を優先する理由は、それが遅れると他部門に迷惑をかけるからである。

施策4:他人の仕事を増やすような仕事はしない(例:内線電話)

内線電話は、するだけでお互いの業務を止めてしまう。不在で伝言、あるいは折り返しとなると、さらに無駄な時間(業務)が増える。
例えば、得意先から納期に余裕のない再版依頼がFAXで入った。担当営業の机の上に置かれたまま放置。しばらくしてから営業は気づき、あわててシステムに受注登録。そして工務に「今、入力したから急いで処理してくれ」と内線。つぎに工務から用紙の購買担当に「すぐ紙を手配してくれ」と内線が入る。こうしてお互いに(無駄な)仕事を日々増やしあっているのだがそのことの自覚が全くない。
これを改善するには、内線電話の件数と時間を数値化するなど、「見えない」無駄を顕在化させ、まず「無駄」があることを認識してもらう。そして、具体的な対策を徹底する。

施策5:「指示」品質を見える化し、向上させる
(特に営業から)不完全な指示をしてしまうと、それ以降の工程の業務効率が著しく落ちてしまう。簡潔な指示で過不足なく相手に伝えることを、普段から“意識”してもらう。できれば、作業指示書を持って行って、口頭であれこれ説明するのではなく、指示書だけで済むことが望ましい。他部署からの問い合わせ件数を記録し、それをどれだけ削減できたで「指示」品質の向上を数値で評価できるようにした。

 
経営サイドから社員を見ると“危機感がない”とすぐ言いたくなるが、本当はみんな危機感を持っている。ただ、どうしたらいいかわからないので、行動ができないのである。だから目標は「具体的」な行動にまで落とし込む必要がある。
また、経営陣のリーダーシップが非常に重要である。それがないと、やるべきことを決めても、いつのまにか決めたルールが守られなくなるということを繰り返してしまう。なぜなら現場(担当者)には逃げ道がいっぱい用意されているからである。例えば、「事故防止のために品質管理のチェックを徹底する」と決めてもいつの間にかやらなくなっている。理由を問うと、「チェック作業をしていると生産性が落ちてしまい目標の生産高が達成できないから」という答えが返ってくる。こういうときには、トップが優先順位をはっきりつけて、「たとえ生産性を犠牲にしても、品質チェックを徹底する」と言い切る必要がある。ルールを決めたら言い訳を許さずに徹底することが大事で、そのためには優先順位を明確にしておく必要がある。
それから上から強制するだけでは“考える力”が育たない。裁量を与えることで、自ら創意工夫をして新しい方法を試すようになる。成功するに越したことはないが、失敗もまた貴重な経験となる。

 

(研究調査部 花房 賢)

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