JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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地域の隠れた逸品をブランディング、生産者直売のれん会

掲載日: 2012年05月25日

八天堂の「くりーむぱん」、油で揚げない「禅ドーナツ」など、デパ地下や駅ナカで販売し売上を伸ばしている生産者直売のれん会の取り組みを紹介する。

生産者直売のれん会は、各地の中小食品メーカーの販売を手助けする「食品製造業支援業」として2007年に設立された。よい商品ながら販路を広げられずに苦戦している地方企業の商品を、駅ナカやデパートの催事売り場、道の駅などで販売し実績をあげている。同社の取り組みと印刷物との関わりについて、代表取締役社長の黒川健太氏、会員支援事業部 部長の伊藤拓哉氏にお話を伺った。

オンラインでたくさん売るよりも、「手作り、手渡し」で

会社設立後に彼らがまず行ったのが、数万はあるであろう日本中の食品メーカーのWebサイトをチェックすることだったという。そこから優良な商品を製造しているメーカーを1000件程度ピックアップし、全国各地を訪問していった。最終的に約100社に絞り込み、パートナーになってもらった。気が遠くなるような取り組みではあるが、「よい商品を探すのにはもっとも手っ取り早い方法」(黒川氏)として、10名ほどのスタッフで2年くらいかけて行った。

そのようにしてパートナーになってもらったメーカーのひとつが八天堂である。同社は広島県三島にある昭和8年創業のパン専門店で、生菓子感覚のくりーむぱんが看板商品。はじめ商店街の空き店舗を利用して販売したところ口コミなどで人気となり、駅ナカや催事店舗へ進出、現在では、1日5000-6000人が買っていくという人気商品に成長している。


八天堂のオンラインショップ。いつでも買えるはずのオンラインショップにもかかわらず、いつも「売り切れ」。

八天堂のポリシーは、「手作り、手包み、手渡し」。人気商品となった現在でも、製造から包装まで手作業でおこなっている。オンラインショップも運営しているが、なるべく手渡しで販売したいという気持ちを反映して1日100セットしか販売しないため、「常に売り切れ状態」が続く。

のれん会の理念は、「価格競争」ではなく「価値競争」へ。価値がある商品は適正な価格で販売できるという考え方だ。店舗を持たず、あえて催事売り場や駅ナカで販売を行っていることも、その時期・場所だけでしか手に入らない商品として価値を高めるのに一役買っている。

販促はWebよりも紙で。ポスターは自前で印刷

黒川氏は、「Facebookやtwitterなどのソーシャルメディアはあまり得意ではないんです。」と笑う。現時点ではWebによる販促はそれほど積極的ではなく、販促手段は商品購入時に同封するチラシやポスターが主であるという。

チラシは小ロット・スピード重視で印刷しており、2ヶ月分で約30万枚を発注している。テスト的なチラシの場合は社内のカラーコピー機で数百枚を印刷することもある。各ブランドごとの包装紙やパッケージなどはそれぞれで発注することが多いが、手間やコストを考えると今後はまとめて発注することも考えているという。

商品は基本的に対面販売であるため、店頭でのやりとりで伝えきれない情報を補うツールとしてポスターは重視している。事務所で大判プリンターを2台購入してデザインから印刷までを自社で行っている。

東北復興支援へつなげる「希望の環」

2011年の東日本大震災では、のれん会の加盟店も被災した。そこで被災地を支援するため始めた取り組みが「希望の環」プロジェクトである。未来への「希望」を共有できる人々の「環」を拡げて復興を目指そう、というコンセプトで、地域の新聞社と連携して被災地の現状や復興状況を写したパネル展を開催したり、被災地の商品を継続的に買ってもらって支援につなげる活動などを行っている。


通販セットに同梱するチラシ。毎号、被災地の生産者を取り上げている。

2012年からは、石巻の4社(うち1社は女川)の商品詰め合わせセットの通信販売を開始した。地域で被災した店舗を持つスポーツセンターチェーンに協力してもらい、会員向け情報誌に応援消費を呼びかける記事を掲載してもらったところ大きな反響があった。また被災した店舗も出荷センターとして活用し、地元の方に出荷作業をお願いすることで地域の雇用を生み出している。


地方の中小企業に対して「売る」場所を提供し、販売を支援するのれん会の活動は、「よいものであれば売れる」ということを証明している。販促物やWeb制作によって顧客のビジネスを支援する印刷会社にとっても興味をもっていただけるのではないかと思い紹介させていただいた。

(研究調査部 クロスメディア研究会 中狭 亜矢)

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