本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
その1:企業の現状
株式会社メディカルトラスト 取締役 事業部長 佐藤 典久
氏
現在、印刷業界でも多くの企業で課題となっているのが、社員のメンタルヘルス・精神的コンディションのケアの問題です。しかし、多くの企業では、こういった状況に対応するスキルがないというのが、現状ではないでしょうか?
そのため、人材を追い込んだり、切り捨てたり、定着を阻害してしまい、結果、組織の生産性の低下や、組織が疲弊してしまうような現象が起こっています。そこで今回は、2007
年9 月12日(水)にJAGAT
で行われた「社員のメンタル面のSOS、早期把握と正しい対応」セミナーから、株式会社メディカルトラスト取締役事業部長佐藤典久氏のお話をまとめます。
人的資源管理の不備が企業の痛手に
企業を構成しているのは「人」「物」「金」「情報」と言われていますが、これら構成要素のうち、「人」は個性や才能(内部資源)と、資格や人脈(外部資源)が注目され、根幹資源である「健康」がほとんど忘れ去られています。しかし、ひと度この健康が失われ、人的資源管理の不備があった場合、会社は大きな痛手を負うことになります。そこで今回は、企業で働く人の健康について考えていきたいと思います。
企業が考える「健康管理」とは
昔は"社員の健康管理=会社の福利厚生の一部"
という考え方で、例えば50 人以上1000 人未満の事業所では、月1
回先生に来てもらい職場巡視をしたり、工場に診療所を作ったりといった対応でした。しかし、現在では企業の社会的責任(CSR)の一つ、またリスクマネジメントの一つとして健康管理を捉える企業が多くなってきました。実際、今や企業の健康管理の半分はメタボ健診(2008
年4
月から実施)などに代表される生活習慣病対策、残り半分は今回のテーマであるメンタルヘルス対策です。
■健康管理に関する問題■
時間外労働をたくさんしている社員が精神障害を発症してしまった場合、その社員に労災申請をしてもらう。○か×か?
精神障害の労災認定について
精神障害を労災認定するということは、それが業務に起因しているかどうか?
ということが最大のポイントですが、非常に判断が難しいのが現実です。例えば、自殺などは、昔はあくまでも個人の問題としてしか取り上げてもらえませんでした。しかし、1999
年9 月に厚労省から「心理的負荷による精神障害に関わる業務上の判断指針」というものが出ました。その内容は大きく2 つあります。
(1)発症前6
カ月の間に客観的に精神障害を発病させる恐れのある業務、例えば倒れ掛かった事業所を再起させる、など業務による強い心理的負荷が認められること
(2)業務以外の個人的な要因によっての障害ではないということが分かっていることです。
具体的に、業務以外の心理的負荷とは、お金を借り過ぎている、家族を失ったなどのことがあって本人が精神障害になったという証明ができればいいということです。もう一つは、本人がアルコール依存や薬物依存など、個体側の要因であった場合も、労災としては認められません。ところが、逆にこのいずれかがあるということが証明できなくて、「会社にとって重大な仕事上のミスをした」「退職を強要された」「会社で起きた事故(事件)について責任を問われた」「ノルマが達成できなかった」「新規事業の担当になった」「会社建て直しの担当になった」「仕事内容・仕事量の大きな変化があった」「出向・転勤・配置転換があった」「セクシャルハラスメントを受けた」「上司とのトラブルがあった」などという事実があれば、労災として認められるということになります。
具体的に言えば、今の労災認定実務ではまず前6
カ月間の労働時間の長さが問題となっています。仮に、精神障害を起こした人が社内で出たら、その人の残業時間を6 カ月間遡(さかのぼ)ってみて、その人が36協定の45
時間を超えて毎月残業しているということならば、一度は労災申請をしたほうが、本人にとってもいいし、会社にとってもいいと言われています。
法律の改正も注意が必要
2006
年の4 月から、残業時間が
(1)月45 時間を超えた人は産業医に情報提供して助言指導を受ける
(2)月100 時間を超えたり、2 カ月から6
カ月の平均で80 時間を超えた場合、助言・指導に加え、産業医の面接による保健指導と産業医の指示により健康診断
(3 ) 残業100
時間を越えた場合、本人が希望したら医師の面接・指導を受ける
ということが、義務化されています。
さらに2008 年4 月からは、50
人未満の事業所に対しても、本人が希望した場合という条件付きですが、100
時間を超える残業をした過重労働者に対しては、医師の面談を受けさせなければいけないという法律が施行されます。来年4
月からは全事業所が対象となるので、注意が必要です。
復職した場合の注意点
休職していた社員が復職したら、それですべて元に戻るのでしょうか?なかなか簡単にそうならないケースが多いようです。例えば、休職して帰ってきたものの、自分は医者に言われて半日しか働けないという人や、あるいは今までの業務は運転業務だったが、内勤しかできないという人を迎え入れた場合、今まで約束していた労務提供に比べて半分しかできないというような場合、会社はどうすればいいのでしょうか?
会社がその人を再び雇い入れる場合は、休職前と身体条件が違うということを知っているので、それに応じた安全配慮義務が生じてきます。このような制限付きの労務の提供者に対して、企業の側は非常に注意が必要です。方法としては、ほかの社員との関係から、例えば半分しか労務の提供ができない人は給料も半分にするといったことを、公明正大にお互いがきちんと話し合って決めて、その代わり健康に配慮した労働にするという努力が必要です。さらに一番の問題は、実は復職しても、再休職者が多数発生しているということです。これは、本人にとっても非常に悲しいことで、自信の喪失にもつながります。また、再発した場合のうつの再発率は倍々になっていくと言われています。本人のためにも、本当はきちんと休んで"一発復職する"
"再休職させない" "再発させない" というのが、うつの人に対する最大の愛情だと思います。
(文責:JAGAT
印刷会社の人材教育を考える会事務局)
次号では、引き続き、佐藤様の「復職に関する課題や対処方法」などを紹介する予定です。